Tokyo String Quartet
(左から)マーティン・ビーヴァー、池田菊衛、磯村和英、クライヴ・グリーンスミス
池田菊衛が語る
東京クヮルテット44年の音楽変遷
深い感謝の拍手をお贈りしたい。1969年の創設から活躍を続けてきた世界最高峰の弦楽四重奏団、東京クヮルテットが44年にわたる歴史にピリオドを打つ。──創設以来のヴィオラ奏者である磯村和英と、1974年から現在まで第2ヴァイオリン奏者を務めてきた池田菊衛が今年6月で引退、個々の演奏と教育活動に転じることとなり、残るふたりは熟慮の上、後継を迎えず解散することを決したのだ。
凛とした存在感と豊かな深みを響かせる多くのレコーディングで世界の弦楽四重奏ファンの敬愛を集め続けてきた東京クヮルテット、その最後のアルバムはドヴォルザーク《アメリカ》とスメタナ《わが生涯より》(2006年2月収録)となるが、ラスト・レコーディングは既発売のブラームスのクラリネット五重奏曲(クラリネット:ジョン・マナシー)とピアノ五重奏曲(ピアノ:ジョン・ナカマツ)を併録したもの(2011年11月収録)。「録音の時点ではまだ次があると思っていたんですよ」と池田菊衛は語る。「もう一枚録音したい気も無いではないですが…」解散までに大変な数の演奏会をこなすため録音の時間がもう取れないとは誠に残念だ。
44年という長い歴史で重ねてきた数多くの素晴らしいレコーディング、メンバー交代も経てきたが「音楽は本質的には変わっていないと思います」と池田。「我々の聴きたい良い音には幾つかの要素があります。クヮルテットの丸い音だけではなく、一人一人のソロや動きも聞こえてほしい。このバランスは永遠の問題ですが…綺麗で澄みやかな音と、温かみのある音の両方が欲しい」
長い歴史で、変わらない本質と、変化と。
「4人とも日本人だった最初の11年くらいは、録音でもはっきりと、そして純粋にきこえる〈グループのサウンド〉をとても大事にしていました。日本の音楽教育には〈人と違うことをやるのはあまりよくない〉という風潮もあるような気がしますし、音程やアンサンブルといった基礎的なことを大事にきちっとやりました。僕がまだいなかった頃のデビュー録音も一回通して終わっちゃったらしい(笑)」
ところが、1981年に第1ヴァイオリンが原田幸一郎からピーター・ウンジャンに代わった時、「彼が違うだけではなく、日本人の3人も違うんだ、と発見したんです。でも、それでいいんですよ」
そこが発想の転換点となった。「ひとりが合図をして合わせるのではなく、4人が一緒に合図して合わせる。そうすると合い方がもっと迫力あるものになるんです。そういう発見が我々にも新鮮でしたし、自由に議論をしてゆく空気も生まれた。いいアンサンブルをつくるにはそういうプロセスが必要なんだということが分かった。とことんぶつかりあって、跳びあがるような成長があったと思います」
1996年にウンジャンからミハイル・コペルマンへ、さらに2002年から現在のマーティン・ビーヴァーへ交替。チェロも2000年に原田禎夫から現在のクライヴ・グリーンスミスに交替。「僕と磯村君も歳を取って少し円くなったのもありますが(笑)上手くやってます。もしかしたらマーティンとクライヴがある意味で大人なのかも」と池田も言うように、年齢差を感じさせない瑞々しさは、新メンバーで完成させたベートーヴェンの弦楽四重奏曲・全曲再録音でも精緻な熟練に輝きを火照らせるよう。ウンジャン時代の全集盤(RCA)も誉れ高い銘盤であることに変わりはないが「ベートーヴェンの作品59(《ラズモフスキー四重奏曲》3曲)を演ってみたらすごく上手くいって、ハルモニア・ムンディがぜひ全曲録音をと言ってくださったのです」と生まれた新全集、その美しい緊密をしなやかに(もちろん明瞭に!)歌い響かせる音楽には、代え難い四重奏の育ててきた愛を感じる。──まもなくの日本ツアーでお別れとなるのは淋しいが、その功績は強く輝く。数々の銘盤もあらためて聴き直したい。
LIVE INFORMATION
『東京クヮルテット 最後の日本ツアー』
5/15(水) 大阪 いずみホール
5/16(木) 東京オペラシティ コンサートホール
5/17(金) 横浜 フィリアホール
5/18(土) 京都 青山音楽記念館(バロックザール)
5/20(月) 東京 武蔵野市民文化会館
5/21(火) 東京 王子ホール
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