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インタビュー

Maria Schneider

©Takuo Sato 写真提供:ブルーノート東京

ギル・エヴァンス最後の愛弟子にして、
現代最高のビッグバンド・リーダーが語る
「ジャズ」「オーケストラ」「即興」

ブルーノート東京では2012年の後半、3つのビッグバンドが公演したが、その最後を飾ったのが、マリア・シュナイダーのオーケストラ。初来日である。10年以上前にニューヨークで会ったときにも、いつか東京にと言っていたのだが、今回の公演、聴衆の熱気にふれて、メンバーはもちろんマリア自身もとても喜んでいた。会場に若い人たちが多かったのも特徴的で、わたしも知人から「マリア、来日するんですね! 学生ビッグバンドの憧れなんですよ!」と言われたりもしたのだった。そう、マリアの音楽は、聴くだけではなく、演奏する喜びさえあるのだ。

「なぜオーケストラか」「なぜジャズか」ということについて──

「オーケストラを始めて長くなるし、作曲もするわけだけど、やっぱり即興のために書くのが大好き。私の音楽はとても複雑で、細かい指示もたくさん書かれているのだけれど、ソリストたちのためにオープンな場所もしっかりと残しているの。演奏が終わったときに、その演奏が互いに──私だけではなくて、ミュージシャンたちのものにもなっているように感じることがあるわ。クラレンス・ペン(ds)がスコット・ロビンソン(sax)に「おまえ、すごかったな」って声をかけて、互いの演奏を称えあっていたりするのを見ると、私の音楽をただ完璧にやるのではなくて、私が書いたものよりもっと大きなものを全員で作ろうとしているんだなって、とてもうれしくなるの」

オーケストラの意味や特徴というのは、音楽を分けあう、分有するというようなことだと考えたりするのだけれど。

「時々、演奏中にみんなが何かを始めるんだけど、誰が最初にそれを始めたのかがわからないことがあって驚くの。鳥の群れが方向を変えるように本能的に、そして全員がつながっている。バンドってそういうものだと思うし、そこが素晴らしいところだと思う。直観のようなものがね。それと、最近は曲の中にスペースを多く取るようになってきたと思う。バンド全員の演奏の時でも、1人や2人の時でも、コントラストを持たせるようにしている。クラレンス・ペンが素晴らしいのはたくさんのスペースを生みだせるところ。時間を刻んでいるだけじゃない。彼はとてもオーケストラ的に考えることができる人だわ」

スコアがあって、しっかり書いてあると、誰でもできると思いがちなんだけども、けっしてそうではない、ひとりひとりの顔がある。

「何度もその音楽が演奏されているなかで、同じひとと一緒にやっていれば、発展していく時間があるわけだし、彼らは私の音楽を理解していて、何度もその音楽に対面しているということが大切なんだと思う。そうすると、みんなでうまく出来る、とでも言ったらいいのかな。そういう演奏法をみんなで培うの。だから15回、20回ぐらい演奏してはじめて音が見えてくる、ということがある。新しい人が入ってきたりするだけでも、違ったパースペクティヴをもたらしてくれるということもあるし、急に違ったところにシフトして、新しいものをもたらしてくれることもある。そういう余裕というかゆとりもあるのよ。この音楽には」

マリア・シュナイダーの音楽には、息、というのか、ながれ、というか。それが、だんだん、身体にはいってくる……。

「空気のようなものかしらね。音が合ってさえいれば良いというではないし、それだけの音楽には我慢できない。これは私のバンドのメンバーには言う必要がないことだけど、他のバンドと仕事をするときは、『フレーズを空気で膨らませて、風船みたいにして届けて欲しい』といつも伝えるの。私のそういう考えはクラシックから来ていると思うんだけど、クラシックの人はバッハの曲をパッと弾いても、フレーズにしっかりとした動きのある演奏をする。音のラインにある意図を理解して、どこに音を届けるのかということをミュージシャンたちと常に一緒に考えていれば、良い音楽が出来ると思う。だから、私のリハーサルはとてもハードなのよ」

新しいプロジェクトがある、と?

「ソプラノのドーン・アップショウと、2つの室内オーケストラと共演したプロジェクトのアルバムがリリースされる。詩がついているのよ。言葉を書くのはすごく新鮮。言葉はエモーショナルな方向性やリズムをどうすればよいか教えてくれる。詩は限定されるけど、もっと多くの方向性を教えてくれる。彼女から曲を書いてほしいという依頼があったときは本当にナーヴァスになったけど、終わってみたら大好きになっていた。これからは、もっと“歌もの”を書きたいと思っているわ」

ちょっと聴いただけだけれど、クラシックでもジャズでもない、でもマリア独特の音色の美しさ、そして無理のないながれのうたがある…

「これは絶対に言っておかなくてはいけないわ。ミネソタ大学に通っていた時にトシコ・アキヨシのコンサートを観たの。当時は大学のビッグバンドのためにはじめて曲を書いているときだったんだけど、あのコンサートは私にとってとても大きな影響を与えたわ。彼女が女性だとかそんなことは何の関係もない。彼女はジャズ、クラシック、日本的な何か、そして彼女にとって非常にパーソナルな何かをミックスした音楽を演奏していた。あれは音楽そのものだったわ。とても感銘を受けて、座って集中して聴きながら“私もこれをやりたい”って強く思ったの。私にもできるかしら?って親友に聞いてみたくらいなのよ」

カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2013年05月09日 18:10

ソース: intoxicate vol.103(2013年4月20日発行号)

interview&text : 小沼純一(音楽・文芸批評家/早稲田大学教授)