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インタビュー

TAJ JACKSON 『New Day』



もはや説明不要の麗しいメロディー、温もりを帯びた優美な歌声——だけど今回のTJはそれだけじゃない!



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「今回のアルバムの出来にはすごく満足してるんだ。これこそが俺のオリジナルの作品だ、と言えるものが出来た。もちろん過去2枚のアルバムがオリジナルじゃなかったというわけではないけど、今回はYouTubeでも他のネットのメディアでも発表してない曲ばかりで、新しい曲だけを聴いてもらえる、ということ。それに、ソングライターとして自分の力を十二分に発揮できた作品だと思ってるんだ」。

新作『New Day』について、このように誇らしげに語るタージ・ジャクソン。ソングライターとしてはスターゲイトやレックス・ライダウトらと組んで数々の名曲を書き下ろし、2度のグラミー・ノミネートも経験する一方、シンガーとしては日本制作のアルバムを2枚リリース。いわゆる〈ニーヨ以降〉のシンガーが続々と世に出る流れに先鞭を付け、安定した活動を進めているように見えた彼だが、「実は次の作品を作ることは考えてなかったんだ」と明かす。

「ただ、自分の音楽をまたやれるという機会が目の前に現れて、ノーとは言えなかった。正直、2作目を出した後の俺は、人生においても、キャリアにおいても、過渡期を迎えていた。すべてのことに対して、それまでとは違った新しい考え方をするようになった、と言うべきかな。前よりもオープンマインドになったんだ。実はノルウェーのマッドコンといっしょに仕事をするようになってね。歌とラップを融合させた曲をやるデュオなんだけど、彼らとの仕事を通じていままでとは違う経験をして、自分自身の音楽に対する考え方やアプローチ方法、すべてが変わったんだ。曲を書いている時には自由に好きなことを思いのまま言葉にすることにしたんだよ、制限なしで」。

そのマッドコンに提供した“In My Head”は見事にノルウェーでチャート2位を獲得するヒットとなったが、USアーバンに止まらない活動領域の広がりとそこから得た刺激は、彼個人の表現衝動を高めることに繋がったようだ。

「ビートを聴いてから時間を置かずに、でも、じっくり時間をかけてそれぞれ曲として作り上げていった。こんなの初めてだよ。曲を聴いて、すぐにスタジオに入って作ってレコーディング。説明しにくいけど、聴いた瞬間すぐに書きたい! すぐ歌いたい! 録りたい! そう思って出来た曲ばかりなんだ。アルバムには自由に感じて表現することの大切さを込めている。〈新たな日〉が訪れた。だから新たな自分を見つけられて、新たな見解、新たなライティング・テクニックで新たな作品を完成できた——そういうことさ」。

そんなマインドを体現するのが、クリス“C・レイ”ロバーツのアッパーなビートを得て「いちばん最初に完成した曲」だという幕開けのポジティヴな“New Day”だろう。これまでのTJはスターゲイトの作風も相まった清涼なメロディー感覚を最大の持ち味としていたが、今回は先行カットのダンス・トラック“Rock! Rock! Rock!”を手掛けたライス&ピーズをはじめ、新進クリエイターとの意欲的な楽曲が目立つ。オープンマインドな姿勢から生まれた曲調の広がりは、新鮮なコラボから受け取ったインスピレーションの産物でもあるのだろう。

「ライス&ピーズからトラックを受け取った時、NYのタイムズ・スクエアでの大晦日のセレブレーションを何となく思い出したんだ。その瞬間を楽しんで、人生を満喫する感じを表現したかったのさ」。

また、ドラマティックなミディアムの“Alright”ではフレドロと初顔合わせする一方で、「彼とは親の違う兄弟みたいなもんさ(笑)」と語る昔からの盟友、レックス・ライダウトとのコラボは3作連続で収録。彼とはあえて往年のスターゲイト流儀や90年代マナーのヒップホップ・ソウルなどを試みているのもおもしろい。

「彼とはいつも安心して仕事できるけど、今回は斬新な音にしたかったからいろんなアイデアを出し合った。それに、ほら、いつも俺の声は〈あるアーティスト〉と比べられたりするだろ? だから俺がスターゲイトと共に作って成功したサウンドのオマージュ的な曲も作ったんだ。レックスはモータウンのA&Rもやってて忙しいのに、俺のために時間を割いてくれて本当に感謝してるよ」。

そうやって本人も大満足の充実作を上梓したTJだが、本職たるソングライターとしての仕事もまた多方面で確認できそうだ。

「J・コールの新作に参加してるよ。イヴの新作に3曲提供したし、LLクールJともやってる。それと、さっきも話したマッドコンの新作がUKとUSでももうすぐ出るはずさ。まだ言えないけど、ライス&ピーズといっしょに某アーティストの曲も書いてるな。あとはYMCMBの新人、トリオンのプロジェクトに4曲——もう働きっぱなしさ(笑)」。



▼タージ・ジャクソンのアルバム。

左から、2010年作『It's Taj Jackson』、2011年作『It's Not Over』(共にManhattan/LEXINGTON)

 

▼タージ・ジャクソンの参加曲を含む近作。

左から、ミュージック・ソウルチャイルドの2011年作『MusiqInTheMagiq』(Atlantic)、HIROKOの2011年作『OPEN THE DOOR』(ユニバーサル)、イヴのニュー・アルバム『Lip Lock』(From The Rib/ユニバーサル)、LLクールJのニュー・アルバム『Authentic』(429/コロムビア)

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2013年05月15日 18:00

更新: 2013年05月15日 18:00

ソース: bounce 355号(2013年5月25日発行)

構成・文/轟ひろみ

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