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インタビュー

Paul Lewis

シューベルトとの終わりなき旅

ポール・ルイスが3年にわたって世界各地で展開してきたシューベルト・チクルスがこの冬、最終回を迎えた。2013年2月、最期の3つのソナタをまとめて演奏し、王子ホールでの全5回の旅を終えた。まず演奏会のプログラムを考え、追ってそれがCD録音に相応しいものかを慎重に検討するのがルイスのスタイルだが、シューベルト最後の6年間の濃密な創作に集中するこのチクルスも、順次2枚組にまとめられ、すでに2集のアルバムがリリースされている。

「シューベルトは決して答えを出さない。問いかけを次々に重ね、私たちを深い自問のなかに置き去りにする」と当初から語っていたポール・ルイスは、死の影を連れた作曲家の歩みを、俊敏な技巧と見通しのよい造型でクリアに刻み込んでいった。「時間をかけてシューベルトと過ごし、作品とパーソナルな関係を築きながら、彼固有の感情を旅してきましたが、チクルスを始めた2年前がさほど昔のこととは思えない。終わりのない発見のプロセスで、私にはそれだけの時間が必要だった。シューベルトの場合、曲の終わりで物語が終わるのではなく、解決されないままに閉じられます。聴衆にとっても困難な体験だと思うし、エンターテインメントとは関係のない世界です。ビザでは私のカテゴリーはE、つまりエンタテイナーであるわけなのですが」とポール・ルイスは笑った。

10年前、20代終わりにはシューベルトのソナタ・チクルスを、今回は1822年以降の独奏曲に包括的に取り組んだ。「最期作まで辿りついても、これが終着点だとはやはり思えない。旅の途中の別の地点にすぎません。将来にまた旅の続きを歩むことになると思いますが、また10年経ったら現在とは違う演奏になるはずです。いま私は40代になりましたが、物事の感じかたや人間としての経験によって、音楽の観かたも避けがたく変わるものだから」。

ルイスは1972年にリヴァプールに生まれ、12歳のときに本格的なレッスンを始めた。「一歩一歩、納得できるペースで進んできました。誰からも強制されることなく、いつも自分の決意で歩んできた。ブレンデルも急がずに、じっくりとレパートリーを勉強しろと言ってくれましたし」。彼独特の透明な音も徐々に進化してきたのだという。「パーソナリティーからくるところも大きいでしょう。物事にどう反応し、どのように響くべきかという信念に関係するから。私にとってサウンドは、聴き手にメッセージを伝えるプロセスや経験全体の基礎となるものです」。

カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2013年05月20日 17:29

ソース: intoxicate vol.103(2013年4月20日発行号)

interview&text : 青澤隆明