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インタビュー

DAFT PUNK 『Random Access Memories』



どこからアクセスしてもあなたはダフト・パンクに辿り着く2013年。沈黙を破って登場した8年ぶりのアルバムから薫り立つ、そこはかとないエレガンスの正体とは……?



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パーティーについて

ついにダフト・パンクが帰ってきた。先行シングル“Get Lucky”が解禁された時点から話題騒然。細かな動きをアピールし続けていないとすぐに〈不在〉扱いされてしまう昨今のシーンにおいて、ここまで短期間で大きなバズを作り出せるというのは、彼らがもうそういうゲームを気にしなくてもいいトップ・アーティストになったことの証明だろう。レーベルを移籍し、オリジナル作としては実に8年ぶり、話題作となった「トロン:レガシー」のサントラから数えても4年……ダフト・パンクのニュー・アルバム『Random Access Memories』が姿を現した。

件の“Get Lucky”にはファレル・ウィリアムズと、シックで知られるプロデューサー/ギタリストのナイル・ロジャースがフィーチャーされていた。この刺激的なコラボレーションについてトーマ・バンガルテルとギ=マニュエルのふたりはこのように説明している。

トーマ「歌詞の大部分はファレルが書いたんだ。この歌詞はダンスフロアにいる人間同士の触れ合い、ハプニング、男女が惹かれて感じることについて書かれている。〈パーティー〉について、いろいろ感じ方があると思うけど、このアルバムでは、ダンス・ミュージックが、もしかしたらある一面では肉体的な誘惑にまつわるものになり得るけれど、それは攻撃的なものではなく、誰もが楽観的な気持ちで、そしていっしょに楽しく過ごすことができるということを表しているんだ」

ギ=マニュエル「トーマに会ったとき、僕たちは12歳と13歳だった。トーマはすでにシックのファンで、僕もそうだった。たぶん、お互いティーンエイジャー時代のアイドルだったというのは大きいね。僕たちはいろんな種類の音楽をたくさん聴いてたよ。なかでもファンキー・ミュージックはお気に入りのスタイルだった。そしてシックはいちばんエレガントなファンク・バンドだった。2人とも、数年前にほんのちょっとだけナイルに会ったことがあったんだけど、去年きちんと連絡を取って〈アルバム制作に力を貸してもらえないか〉とオファーしたんだ。そしたら、ありえないことに、彼も長年ダフト・パンクのファンだった。それで彼に会い、曲制作に取りかかった。もう、マジックのようだったね。彼がスタジオに入ってきて、ギターをプラグインして、それから先は、いままでのなかでもっともマジカルな経験になったよ。 もちろん世間には信じられないほど素晴らしいミュージシャンがたくさんいると思う。でも僕たちが3人でスタジオに入っている時、マジックの集大成とも言うべき瞬間がいくつかあったんだ。いっしょに演奏を始めると、1分か2分で、皆が文句ナシに絶好調なグルーヴに入り込むんだ。〈ナイル・ロジャース〉と言えば〈グルーヴ〉だからね。彼が参加したすべてのトラックに言えることだけど、彼が演奏を始めて2、3分もすると、惑星が一直線になるような感じがするんだ」

トーマ「コラボレーションの対象となるミュージシャンは、僕たちが敬愛していて、最高だと思う人たちをランダムに、または友情や日頃の繋がりを基本として、自然な流れで人選したよ。もちろん、根底にあるのは僕たちが愛する音楽だね。音楽家としてではなく、音楽愛好家としての立場で考え、いろいろなレヴェルで僕たちにインスピレーションを与えてくれる人々を念頭に置いて選んだんだ」



妥協しなかった

その言葉通り、過去の名作群と新作の違いは、多彩なゲスト・ヴォーカル/プレイヤーたちを迎えていることだろう。ストロークスのジュリアン・カサブランカス、パンダ・ベア、チリー・ゴンザレス、そしてエレクトロニック・ミュージックの父とも賞されるジョルジオ・モロダー……。それと同時に、ポール・ジャクソンJrやオマー・ハキムらスタジオ・ミュージシャンの重鎮たちを招集して、これまでのようにサンプリング主体の作りをほぼ撤廃したことも大きな変化だと言えそうだ。

トーマ「このアルバムは〈妥協を一切許さない〉ことに成功した作品だよ。だから5年の期間を要したんだ。徹底すること、納得するまで試した多数の試行錯誤すべてが長時間を要した理由だよ。ひとつのアートをとって眺めてみて〈なるほど、こうあるべきなんだ〉と。まるで、石の中に潜む彫刻のようにね。 いままで、僕たちは自宅のスタジオで音楽を作ってきた。ある意味、家のスタジオ規模でも音楽が作れるということを示せたのは良かったけど、本格的なレコーディング・スタジオを使うという機会にこのタイミングで恵まれて良かったと思ってる。まるで映画を撮るのと似ているよね。本物のセットを使用する映像作家が減り、いまはみんなCGを多用してセットを作っているようにね」

そんな〈人間味〉に対しての意識は、RAMを複数形にした『Random Access Memories』という表題にも反映されている。

トーマ「僕たちは以前からロボットの知識を深めてきた。ロボットというのは〈テクノロジー〉と〈人間〉の関係性を表すメタファーに匹敵すると思うんだ。20年前に僕たちが音楽を作りはじめた頃と現代では大きな違いがあって、コンピューターの存在が強くなり、社会や社会的行動さえも占領している。テクノロジーという人工の産物やそこに付随する情報などが、知能の延長線そのものになりつつあるんだ。人間の脳とHDの類似点と相違点を例にとっても、HDは保存するのが簡単だよね。だから、〈メモリー〉と〈メモリーズ〉の言葉にも意味を持たせた。〈メモリー〉はデータ/情報であり、〈メモリーズ〉は同じ言葉でも感情や愛情がこもる。同じデータでも人間の視点や脳には感情が入る。この感情という本質が、ロボットと人間を分ける違いであるという理解を表現したかった。〈ランダム〉という言葉にはカオスの意味合いも込められているんだ。音楽的アイデアからもう一つのアイデアへとジャンプするというジャーニーは、止まることはない。過去に経験した感情、思い出、会話からランダムにアクセスされるもの……そんな要素も音楽のプレゼンテーションに少し含ませたコンセプトなんだ」

そんな意識から誕生した意欲的な力作をどう一言で表現するか?の問いにふたりはこう答えている。

トーマ「〈音楽〉だと思うよ」

ギ=マニュエル「そうだね、〈音楽〉だ」

トーマ「いや、たぶん〈音楽性(ミュージカリティー)〉だ。過去30年間、レコーディングのフォーマットややり方、楽器の発達などのテクノロジーがどんなに進化しても、〈音楽性〉自体を向上させてはこなかったんだ。外観的な小型化の技術や利便性の追求が進化して、もちろん素晴らしい音楽はいまもたくさんあるけれど、確実に音楽性の割合が顕著で重要視されていた時代があるよね。このアルバムではその音楽性にこだわりたかったんだ」



▼ダフト・パンクの作品。

左から、2001年のライヴ盤『Alive 1997』、2003年のリミックス集『Daft Club』、2006年のリミックス集『Human After All Remixes』、2007年のライヴ盤『Alive 2007』(すべてVirgin)、2010年のサントラ『Tron: Legacy』、そのリミックス盤『Tron: Legacy Reconfigured』(共にWalt Disney)

 

 

▼ダフト・パンクのオリジナル作。

左から、97年作『Homework』、2001年作『Discovery』、2005年作『Human After All』(すべてVirgin)

 

▼関連盤を紹介。

左から、シックの77年作『Chic』(Atlantic)、ファレルの2006年作『In My Mind』(StarTrak/Virgin)、ストロークスの2013年作『Comedown Machine』(RCA)、ジョルジオ・モロダーの76年作『From Here To Eternity』(Oasis/Repertoire)、アニマル・コレクティヴの2012年作『Centipede Hz』(Domino)

 

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2013年06月19日 17:59

更新: 2013年06月19日 17:59

ソース: bounce 355号(2013年5月25日発行)

構成・文/レス・ハート 写真/デヴィッド・ブラック

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