The Flickers 『A PIECE OF THE WORLD』
これまでに発表した2枚のミニ・アルバムとEPのリード・トラックをすべて含む、最初の集大成と呼ぶに相応しいThe Flickersのファースト・アルバム『A PIECE OF THE WORLD』が完成した。2000年代のガレージ・ロックと80年代のニューウェイヴをフェイヴァリットに挙げ、一昨年にタワレコ限定のミニ・アルバム『WONDERGROUND』をリリースした際にはまだ未知数だった彼らの可能性が、見事に花開いている。それが、作品ごとに〈衝動〉〈知性〉〈情熱〉といったテーマを掲げて実験を繰り返してきた成果であることは間違いないが、本作の制作には過去の3枚とは違った姿勢で臨んだのだという。
「今回はあえてテーマを設けずに、いまの自分たちが全力でぶつかって、音にリアルなカオスが出ればいいなと思って作りました。結果として、等身大の自分たちの真心が詰まった、自分たちが作りたかったファーストになったと思います」(安島裕輔)。
では、彼らの代わりに筆者が本作を一言で表すとすれば、それは〈洗練〉がしっくりくるように思う。その象徴となるのが、今作の中でいちばん最後に出来たというオープニングの“love destruction”だ。〈The Flickers流の王道〉とも言うべきニューウェイヴィーなナンバーだが、時流のシンセ・ポップなどからサウンドメイキングの手法を吸収し、非常に洗練された仕上がりに。また、この曲は彼らの表現の核が明確に提示された楽曲でもある。
「〈希望と破滅〉〈一瞬と永遠〉とか、相反する要素が追いかけ合うような感じを出したかったんです。タイトルは最初〈love in destruction〉とか〈love of destruction〉みたいに前置詞を少し気にしたんですけど、意味を限定したくないと思って、ふたつの言葉をそのまま並べました。相反する意味が共にロールしていく、続いていく感じっていうのは、僕がいつも大事にしていることなんです」(安島)。
「この曲が出来て、〈アルバムが完成するな〉って思いました。最後に作ったので、楽器を録り終えた段階ではまだ安島の歌がなくて、歌録りの本番で初めてメロディーを聴いたんですけど、安島が歌いはじめてすぐに、マネージャーに〈これ、行けますね〉って言いました(笑)」(本吉“Nico”弘樹)。
一方、アルバム中盤にはより実験的な楽曲も収録され、ヴォイス・パーカッションをフィーチャーし、カットアップで制作された“noiz me”や、ハードコア寄りの“fight club”などが実に新鮮。スクエアな4つ打ちの曲が多かった彼らだが、リズム・パターンも大きく広がり、“electrical parade”なんて、まるで!!!をメジャー・レイザーがリミックスしたような、ファンキーな仕上がりだ。これらの曲を携えて、今年の夏は東名阪のワンマン・ツアーに加え、数多くの夏フェスにも出演する。
「レコーディングで完成というわけではなくて、曲はライヴでやると進化していきますね。CDのクォリティーでそのままやろうとするとシーケンスが嘘っぽくなっちゃうので、それをバンドに溶け込ませる作業を常にやってます」(本吉)。
「ライヴは曲を作り変えるぐらいの勢いでやっていて、録音されたものとは全然違うリズムで弾いていたりもするので、ライヴならではの立体感みたいなものを感じてもらえたら嬉しいです」(堀内祥太郎)。
〈ポップであること〉と〈実験性〉の両面を意識し、繊細な感情表現も含んだうえで、しっかりと踊れること。それこそがThe Flickersのめざす音楽であり、スーパーカーやサカナクションの系譜にも連なるオリジナリティーの担い手へと、彼らは本作で新たなスタートを切ったのだ。
PROFILE/The Flickers
安島裕輔(ヴォーカル/ギター/シンセサイザー)、堀内祥太郎(ベース/コーラス)、本吉“Nico”弘樹(ドラムス/コーラス)から成る3人組。2005年に結成。精力的にライヴ活動を行う傍ら、2011年に初音源となるミニ・アルバム『WONDERGROUND』をタワーレコード限定でリリースし、2012年は5月に2枚目のミニ・アルバム『WAVEMENT』を、12月に初のEP『Fl!ck EP』を発表。コンスタントな作品リリースと並行し、同年は1年を通じて〈RUSH BALL〉や〈COUNTDWN JAPAN〉など各地の大型フェスを含む数多くのイヴェントにも出演。着実に知名度を高めるなか、このたびファースト・フル・アルバム『A PIECE OF THE WORLD』(HIP LAND)をリリースしたばかり。
カテゴリ : インタビューファイル
掲載: 2013年06月26日 14:30
更新: 2013年06月26日 14:30
ソース: bounce 356号(2013年6月25日発行)
インタヴュー・文/金子厚武