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インタビュー

般若 『般若万歳』『コンサート』



その瞳は何を映す? その唇は何を語る? いまを生きる男の新作は7月、ってことで今月は予告編。ご来場の皆様……コンサートの開演までしばらくお待ちください……



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孤高の存在……と改まって文字にしてしまうと陳腐にも思えるが、“神輿”での本格的なソロ・デビューから10年、般若にそうした一匹狼のイメージを重ねてきた人は多いのではないか。研ぎすまされた己の言葉とビートだけの関係をストイックな独自性として磨き上げてきた彼の動きは、業界内ではなく聴き手と向き合うことを優先してきたように映ったし、2作目『根こそぎ』以降のアルバムにゲスト・ラッパーを迎えていないという具体的な事実も、どこにも染まらない単独犯という印象を与えるに十分な理由ではあった。



金に困ったら……

一方で、般若が他アーティストに招かれて残してきた客演曲の数は予想以上に多い。今回登場する『般若万歳』は、彼がそうやって経験してきたコラボ(など)の数々から般若ヴァースを中心にミックス形式で収めた、過去10年間の変則的な客演ベストと呼べる内容になっている。般若本人によると「金に困ったら出そうと思ってました」とのことだが、ファンにとってもサーヴィスとなるに違いない。そのセレクトとDJミックスを担当したのは、ジャケに般若よりも大きく映っているDJ FUMIRATCH。2010年から般若のバックを務めている彼の勇姿は、ライヴや映像作品でもお馴染みだろう。

般若をして「やる気と才能、若さと狂気に満ち溢れている」と言わしめるFUMIRATCHは、青森は三沢の出身。2005年にDJを始めた時には弱冠14歳だったそうだが、もともとはバトル志向からDJというキャリアを選び、〈Teens Championship 2009 DJ Battle〉において準優勝したという実績の持ち主でもある。

「DJ KENTAROさんが出ているNHKの番組を観たのがきっかけです。なので、初めからバトルDJをめざしていました。当時はバトルに出たいというより、スクラッチとか2枚使いをただただやりたかっただけかもしれません(笑)」。

高校卒業と同時に活動の拠点を東京に移した彼は同郷のラッパーのDJをやったりしたそうだが、HPの公募をきっかけに般若のライヴDJに抜擢されたという。

「般若さんの作品は中学生の時から聴いてました。ちょうど、『内部告発』が出たあたりだと思います。初対面の時の印象は、男だなって思いました(笑)。それはそうなんですが、考え方や振る舞いがです。いまもその印象はあまり変わりませんね」。

そんなFUMIRATCHによる『般若万歳』の選曲コンセプトはこうだ。

「テーマとしては、〈feat. 般若〉といえばこの曲だろうという王道なものを入れるのはもちろん、〈この人といっしょにやっていたのか〉というような曲をうまく組み合わせるようにすることでした。あと今回は最近の曲と昔の曲を並べて収録しているんですが、ラップやトラックもけっこう変わってきているので、なるべく近い年代ごとにまとめることによって、より聴きやすくなるよう心掛けました」。

それこそ10年前のZeebra“GOLDEN MIC(REMIX)”や、かつて所属していたFUTURE SHOCK総勢での“SHOCK TO THE FUTURE '04”を聴けば、声の若さに驚かされることだろう。時代ごとに満遍ないチョイスのなかに、敬愛する長渕剛のトリビュート盤に提供した“裸足のまんまで(Remix)”やDJ BAKUとの“COAST TO COAST”といった重要曲、エモーショナルな晋平太の“時代遅れ”や籠獅の“そっから”といった隠れた名演も散りばめられている。また、SHINGO★西成と般若のタッグ曲“SHOWA SONG(DJ FUMIRATCH REMIX)”などが初CD音源として収められ、“東京UP”はライヴのMC部分から始まるといった演出も施されている。

「基本的には僕がまず仮で作ったミックスに対して意見や注文をもらって、それをまた改良するという作業を繰り返して作りました。般若さんの注文は、どの曲を入れてほしいかや、ライヴのMCを使ったらどうだろうかというようなものでしたね」。



終わる日まで

そして。そんな『般若万歳』をイントロダクションとして、7月に届けられるのが、般若にとって通算7作目となるニュー・アルバム『コンサート』だ。現時点ではまだ詳細が明かされていない部分も多いが、一足先にその全容を耳にしているFUMIRATCHによると……。

「前作の『BLACK RAIN』もそうでしたが、今作はさらにメッセージ性が強いと思いました。だからといって真面目な曲ばかりではなく、他の曲とのバランスも絶妙ですね。あとは相変わらず言葉選びがホットでおもしろいです」。

Jam Kaneのドラマティックなビートが新たな幕開けを告げる先行配信の“終わる日まで”にはNORIKIYOが迎えられ、SAMI-T(MIGHTY CROWN)とのキルなダンスホール“はいしんだ”では鬱憤を晴らすかのようなハードな言葉が吐き出されていた。制作途上で瀕した〈3.11〉以降の心情も込められた『BLACK RAIN』は否応なくドキュメント性を帯びる一枚となったわけだが、先行カットから判断するに今回の『コンサート』は〈その先〉を生きる作品に違いない。少なくとも、冒頭で述べた諸々の先例を覆すかのようにSHINGO★西成や田我流、ZONE THE DARKNESSらの参加が伝えられている。気になるその全容は果たして……。【次号へ続く】



▼関連盤を紹介。

左から、般若の2011年作『BLACK RAIN』、DJ FUMIRATCHも登場している昭和レコードの最新ライヴDVD「昭和レコード TOUR SPECIAL 2012 -THE LIVE DVD-」(共に昭和レコード)、NORIKIYOの2011年作『メランコリック現代』(諭吉)、SHINGO★西成の2012年作『ブレない』(昭和レコード)

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2013年06月26日 17:59

更新: 2013年06月26日 17:59

ソース: bounce 356号(2013年6月25日発行)

構成・文/出嶌孝次