インタビュー

Bill Frisell

風景が音楽へと変わる瞬間をとらえた、フリゼール版『ビッグ・サー』

毎年1枚以上の速いペースで新作を発表し続けるビル・フリゼールがニュー・アルバム『ビッグ・サー』を発表した。収録19曲は昨年9月にモンタレー・ジャズ・フェスの委嘱作品として初演された書下ろしだ。

ビッグ・サーはカリフォルニア州セントラル・コーストにある地域で、太平洋岸から僅かな距離で山が立ち上がる美しい景観で有名だ。『ビッグ・サーの夏』を書いたケルアックのように、その地に魅せられたアーティストも数多い。ビルは昨年4月に美しい自然の中にある牧場に10日間滞在して作曲に取り組んだ。

「この体験が素晴らしかったのは、その場所がものすごく美しかったこともあるけど、誰も同行せず、完全に独りだったことさ。自分しかいない宇宙にいる感じだった。数日後には今が何時かもわからないし、日常とはまったく違う状態になっていた。そのおかげで自分の精神を自由にさせて、想像力を広げられたんだ」

収録曲のほとんどはギター片手ではなく、ビッグ・サーの自然の中を散歩する間に生まれたという。

「日頃はギターを手に書くことが大半だけど、時々はすべてを頭の中で想像してやりたいんだ。すると、指でできるよりもずっと遠くまで行けるから。それをギターで弾くと、曲にまた異なった生命が生まれる。あそこでは散歩に良い場所がたくさんあったから、小さなノートを持って歩き回った。あまり考えずに素早く、デッサン画のように、メロディを書きつけた」

「あらゆる音楽が好きだ」というビル独特のアメリカーナ・サウンドはジャズからフォーク、カントリーまでを呑み込み、本作にはサーフ・ギター的な曲まで登場するが、目に見たものを音で描写したのではなく、あくまでもそれに反応したビルの内面の反映である。

「人として何かにインスパイアされても、音楽はそれ自体の生命を持つ。音楽が乗っ取って何か別のものになるんだ。自然や絵画などを見てアイデアが生まれても、結局は自分の内面にあるものの表現となる。音楽はそこにある。ビッグ・サーでの素晴らしい体験は、音楽がそこから出てくることを可能にしたんだよ」

録音メンバーは05年から一緒にやっている858カルテット(ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ)にドラムズを加えたクインテット。《家族のように一緒に歌う》という曲があるように、気心の知れた顔ぶれだ。

「ドラムズを加えることはしばらく前から考えていた。特にルディ(・ロイストン)は力強い演奏ができる一方で、弦楽器の音の強弱に繊細に対応できるドラマーだからね。ツアーにも出るんだけど、わくわくしている。この録音はこのグループの冒険の始まりに過ぎないと感じているからさ。日本にも行きたいね」

photo : Monica Jane Frisell



カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2013年06月25日 13:42

ソース: intoxicate vol.104(2013年6月20日発行号)

interview&text:五十嵐正