小山実稚恵
リストやブゾーニなど、19世紀を代表する編曲作品を中心に
新アルバム『シャコンヌ』をリリースした小山実稚恵。ピアノ・ソロの録音でありながら、ブゾーニ編曲のJ・S・バッハ《シャコンヌ》はオリジナルがヴァイオリン独奏曲、リスト編曲の《イゾルデの愛の死》はワーグナーの大作オペラのピアノ用トランスクリプション、とかなり異例な作品が集められている。
「19世紀の作曲家たちがバッハの作品をいかに敬愛していたか、 その頂点に立つような作品がこのブゾーニの《シャコンヌ》の編曲だと思います。ブラームスも左手のために編曲していますが、ブゾーニはさらにその上を行くような力強い作品になっていますね。この作品を演奏している時に、必ず懺悔したい気持ちになる箇所があるのですが、そういう精神性を当時の人たちも感じていたのではないでしょうか。オリジナルのヴァイオリン曲を聴いた時にはあまり感じない感情なのですが。 不思議ですよね」
アルバムの始まりはフランクの《前奏曲、コラールとフーガ》で、オルガニストとして活躍したフランクらしい重厚な音楽。そしてシューベルトの《即興曲142ー3》は〈ロザムンデ〉として知られるメロディの変奏曲。最後にはショパンの傑作ポロネーズ《幻想》が置かれる。《シャコンヌ》も印象的だが、リスト編曲の《イゾルデの愛の死》 も驚きに満ちている。
「オペラからの編曲作品の中でも、群を抜いて素晴らしい作品だと思います。冒頭の和音の衝撃、続いて低音部の重苦しい動き、さらに後半に向かって昇華していくような音楽の流れ。ワーグナーの、あの厚いオーケストレーションを、ピアノでここまで表現をしていくのは驚くべき才能だと、改めて思いました」
今年はワーグナーの生誕200年。上演も多いけれど、ワーグナーの音楽を19世紀の同時代の人たちがどう受け入れていたかを知るには、リストの編曲作品も重要な位置を持つ。
「実際のオペラを聴けなくても、その音楽を体験するという点で、リストの編曲作品が果たした役割はとても大きかったはずです」
ところで、録音は軽井沢の大賀ホールで行なわれた。最新のデジタル機器を用いた録音が、演奏にも影響を与える、と小山は語る。
「極限までマイクの性能が向上し、わずかな響きの違いや空気感まで克明に記録されます。逆に簡単にはつながらない。録音の原点に戻ったように感じます。編集をしない心づもりで最後まで一気に録音しました」
Bunkamuraオーチャードホールでの連続リサイタルも中間点を過ぎ、秋にはリスト編曲のベートーヴェン交響曲第6番《田園》も演奏される。楽しみだ。
LIVE INFORMATION
『「小山実稚恵の世界」ピアノで綴るロマンの旅 第16回~ピアノの魅力~』
11/16(土)15:00開演
会場:Bunkamuraオーチャードホール
http://www.bunkamura.co.jp/