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インタビュー

田部京子

初共演から15年、瑞々しさは変わらずに

「カルミナ四重奏団のメンバーは、弦楽四重奏では煮詰まっても〈ピアノが入ると解放される〉と言うんです」と田部京子は柔らかな明るい声で語る。「曲中に、たとえ感じ方の異なる部分があった時でも、互いが主張し合わずに自然と一体となって同じ方向に進む。それが、共演を重ねてより精密になってきている」

熟達の深みを美しくひらくピアニスト・田部京子の新譜からはいつも、驚くほど精緻な知情のバランスが作品の陰翳を確かに捉えきる驚きと、感情の焦点が澄んで合ったような感銘を必ず贈られてきた。そして名門・カルミナ四重奏団との2枚目『ブラームス:ピアノ五重奏曲・ピアノ四重奏曲第3番』も、凄い。

「初共演から15年になりますが、彼らに感じた〈今そこで生まれたての瑞々しさ〉は変わりません。彼らは溌剌と自由に演奏しながら、確固たる解釈・信念は曲げない。無駄を排して音楽の本質に鋭く斬り込んでゆきますし、私も作曲家の声を聴きもらさないよう作品の真髄に迫っていきたいという信念があります。音楽的な呼吸や昂揚感を共有できていると実感しています」

田部京子とブラームスの縁も長く深い。「ベルリン留学中、それまで遠い存在だったシューベルトやブラームスがとても近く感じられるようになりました。実はCDデビューも、ブラームスのソナタ第3番をコロムビアのかたが聴いて下さったのがきっかけ。デビュー盤はショパンで、第3番は未だに録音していませんが(笑)」

シューベルトはデビュー翌年から録音を重ね多くの聴き手に深く愛されてきた。ブラームスも満を持して一昨年「もの凄いエネルギーがすべて内に向かってゆき、ロマンティックな情熱が古典的な枠組みの中で葛藤するように表現し尽くされている」という後期作品集を録音。畏るべき充実を響かせたこの名盤に続くのが今回だ。「カルミナ四重奏団との共演第1弾CDで、シューベルト《ます》とシューマンのピアノ五重奏曲を録音したときから、次は絶対ブラームスだと」

念願叶っての本盤、「ブラームスはロマン派の時代に生きながら〈古典主義を継承する中に、自身の強い感情表現をいかに組み込めるか〉に挑戦している人」と語る、その烈しさと確かさとが明晰に響く。

12月5日にはCDデビュー20周年記念リサイタル。そして来年、期が熟するのを待ち続けてきたベートーヴェンのソナタ録音が遂に実現する。しかも「最後の3つのソナタです。シューベルト、ブラームスに続いて晩年の作品からになってしまいますが(笑)」というのも作曲家の到達した深みを精緻明晰に響かせてきた田部ならではの選択だ。こちらもしかとお待ちしよう。

LIVE  INFORMATION
『CDデビュー20周年記念 田部京子 特別ピアノ・リサイタル』

12/5(木)19:00開演 会場:浜離宮朝日ホール
http://www.asahi-hall.jp/hamarikyu/

カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2013年07月04日 20:35

ソース: intoxicate vol.104(2013年6月20日発行号)

interview&text:山野雄大