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インタビュー

(((さらうんど))) 『New Age』



このアルバムを聴いている時くらいは、いつもの自分じゃなくてもいい。目を閉じれば、うんとロマンティックで煌めいた世界があなたを待っている——ラヴソングという名のもとに理想を歌った極上のポップスがここに



さらうんど_A



万華鏡の煌めき

(((さらうんど)))は、イルリメこと鴨田潤(ヴォーカル/ギター)の呼びかけに応えたCrystal(キーボード)と、K404ことKenya Koarata(PC/ドラムマシーン)によるユニット、いや、バンドである。作曲は鴨田とCrystalが分け合い、Crystalがトラックメイクと編曲、Koarataがビートを打ち込んでいくという役割。CrystalとK404はTraks Boysとして数々のリミックス・ワークを手掛けてきたユニットだが、やはりCrystalがミックス音源などで聴かせてきたラグジュアリーな日本のポップスが、そのサウンドの背景としてまずある。

「Crystalが〈Made In Japan Classics〉というDJミックス・シリーズを作っていたので、彼とバンドをやるとなればロックに行くわけでもないし、どちらかというとシティー・ポップのような方向に行くだろうなっていうのはありましたね」(鴨田)。

「ファーストを出した時はシティー・ポップという言葉が引っ掛かり的にいちばん良かったような気がするんですが、いま思い返してみるとシティー・ポップというよりは普通にエレクトロニックなポップスだと思って。結局自分はドラムマシーンとシンセサイザー、そこにギターが入って……といったサウンド構成が好きなので、そういうポップスですって言ったほうが正確なのかなと」(Crystal)。

昨年春にリリースされたファースト・アルバム『(((さらうんど)))』には、佐野元春“ジュジュ”のカヴァーをはじめ、〈シティー・ポップ〉というキーワードを浮かべやすい楽曲も収められていたが、実際に聴いてみるとそこだけで括ってしまうにはしっくりこない音楽である。〈シティー・ポップ〉〈80s〉といったノスタルジアを喚起させるギミックがありつつも、ちょっと角度を変えて眺めてみると、違った風景、真新しい景色が見える——それはさながら〈煌めき〉というガイドラインに沿って集められた音の粒を放り込んだ万華鏡のようで……。

「サンプリングにおいても、自分はDJ的なセンスを見せるっていうのがあまり得意ではなくて、音楽自体を見て曲を作ってるところがあるんです」(鴨田)。

「トラックを作る時、発想としてゼロから打ち込んでいくわけじゃないんです。ある音楽を聴いて、そこで喚起される感情があったとしたら、そのリアクションになる音を自分の引き出しの中から持ち出してきて組み合わせてみたりっていう、いろんなパーツを多層的に組み合わせてトラックを作っているので、たぶんそこが〈万華鏡のよう〉っていう印象に繋がってるんじゃないかと思います」(Crystal)。



理想を歌う

で、ニュー・アルバム『New Age』だ。晴れやかなシンセのリフと小気味良いギターが盛り立てる“Signal Signal”、YMOが手掛けた歌モノのように洗練されたポップネスを聴かせる砂原良徳との共作曲“きみは New Age”、鴨田のトリッキーな脳内グルーヴをポップソング化したという“Soul Music”など、今作でもエレクトロニックで豊潤な味わいのポップスを聴けるが、サウンドのディテール以上に、歌の持つ情緒や力強さが前作以上に際立っている。

「(((さらうんど)))の曲はラヴソングにしようと。それはファーストの時からなんですけど、今回はラヴソングにおける語彙をもっと増やしていこうと心掛けて、歌を聴かせるという部分により神経を使いましたね。ミックスの段階で歌を強く出したい、言葉をもう少し強く聴かせたいっていうのを、エンジニアの得能(直也)くんと何回もやりとりしましたから」(鴨田)。

さらに、マイナー・コードを掻き鳴らすアコースティック・ギターと後関好宏(在日ファンク、stim)のサックスがドラマティックに掛け合う澤部渡(スカート)作曲の“Neon Tetra”では、(((さらうんど)))の世界観に程良くロック要素を融け込ませ、サウンドにおいても語彙を増やしている。

「コード進行とかメロディーの起伏にストーリー性がある曲が欲しいなっていう気持ちがあって。僕の作る曲はわりとシンプルなんですけど、コード的にもA→B→サビの繰り返しではなく、CメロがあるとかB'があるとか、彼(澤部)はそういう起伏の作り方がすごく上手いんですよね」(Crystal)。

非常にフリーフォームな編成ということもあり、必要とあれば新たなサムシングを限りなく吸収することも可能だ。いずれディストーションを効かせたギターをガツーン!と轟かせたり……なんてことはないか。

「今回のアルバムを作ってる時に、生ドラムを入れるかどうかって結構何回も話し合ったんですよね。でも、最終的に自分たちのテイストを守るっていうことで打ち込みでいくことに決めまして。なので、これから飛躍的に音の種類が増えていくかというと、そこまででもないかなって気持ちはありますね」(鴨田)。

「自分が好きなバンドでも、テイストが変わりすぎると残念だなって思うこともありますからね」(Crystal)。

それはやはり、〈歌〉ありきで音を編んでいるということの表れだろう。そこで何ゆえ〈歌〉なのかということだが、それについて鴨田は、公式サイトに次のような文章を寄せている。

言葉がのった音楽、ポップスはいつの時代も〈理想〉を歌ってきた。作家たちは、その時代の煽りをうけながら感受した悲喜交々をためこみ、ときおり静かにその感情を思い起こしては時代の理想を横隔膜とともに広げ、歌を作りあげてきた。

僕は理想を歌うポップスが好きだ。その歌のおかげで背伸びをし、前進してこれた。そんな歌達が、生きていく上で、物事を考える上での羅針盤だった。そういった羅針盤のような歌達に人生の行く先を変えられて、同じように歌を作り続ける人々が今の時代にも多く存在する。自分を導いてくれた理想達を裏切らないように、その灯を絶やさないように、歌を作り続けている。僕もそのうちの一人だ。 (以上、抜粋)

何かとストレスの多い現代、わかりきった救いのメッセージで手を差し伸べるのではなく、あえて〈ラヴソング〉という〈理想〉を響かせることで聴き手を前進させる──(((さらうんど)))の音楽、それは彼らのキャリアを知らない人にも〈いま聴きたいポップス〉として訴求する力があるはずだ。



▼関連盤を紹介。
左から、(((さらうんど)))の2012年作『(((さらうんど)))』、鴨田潤の2011年作『「一」』(共にKAKUBARHYTHM)、Traks Boysの2008年作『Bring The Noise』(SWC)

 

▼参加したアーティストを一部紹介。
左から、砂原良徳の2011年作『liminal』(キューン)、在日ファンクの2012年作『連絡』(Pヴァイン)、スカートの2013年作『ひみつ』(カチュカ・サウンズ)、ceroの2012年作『My Lost City』(KAKUBARHYTHM)

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2013年08月21日 17:00

更新: 2013年08月21日 17:00

ソース: bounce 357号(2013年7月25日発行)

インタヴュー・文/久保田泰平

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