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インタビュー

ROBIN THICKE 『Blurred Lines』



長らく最前線で奮闘してきたR&Bの貴公子は、ここにきて過去最大のブレイク・ポイントを迎えている。“Blurred Lines”の世界的な大ヒットに導かれたニュー・アルバムで、彼が差し出してきたものとは?



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魔法がかかったような瞬間

「“Blurred Lines”は、ファレル・ウィリアムズとスタジオに入って数日間作業していたなかで生まれたんだ。俺はマーヴィン・ゲイの“Got To Give It Up”が大好きなんだけど、あるとき俺がファレルに〈“Got To Give It Up”みたいなフィーリングとスピリットのある曲を作ってみるのはどうだい?〉って提案してみてね。そうしたらファレルがビートを作りはじめて、1時間半くらい経ったころには楽曲が完成していたんだ。まるで魔法がかかったような瞬間だったね」。

2013年夏のポップ・ミュージックを制するのは、この調子でいくとロビン・シック“Blurred Lines”で決まりだろう。すでに世界46か国の配信チャートで1位を獲得したほか、全英チャートで4週連続1位を達成している“Blurred Lines”は、本稿執筆時点で6週に渡って全米チャートの首位を独走中。これはバウワー“Harlem Shake”やマックルモア&ライアン・ルイス“Can't Hold Us”を凌ぐ、今年の全米チャート最長連続No.1記録になる。

「“Blurred Lines”のビデオは、おもしろくてちょっとおどけた感じにしたかった。美しい女性に囲まれるのは最高に心地良いよ。でも幸いなことに、俺には家に帰れば夢のような美しい女性が待っているんだ。ビデオに登場する女の子たちも俺のワイフとは比較にならないね」。

“Blurred Lines”のビデオで真っ赤なルージュを塗ったモデル美女たちを従えるロビンの伊達男ぶりに、もしかしたら往年のロバート・パーマーを重ね合わせる向きもいるかもしれないが、ロビンの受容のされ方はポップ・フィールドを主戦場とするいわゆる〈ブルーアイド・ソウル・シンガー〉とは大きく様相が異なっていて、彼自身もブルーアイド・ソウルにカテゴライズされることを好ましく思っていない。

アンドレ・ハレルとベイビーフェイスが共同で興したニュー・アメリカの第1弾アーティストとして2002年にデビューしたロビンは、ファレル・ウィリアムズが主宰するスター・トラック移籍後の2007年に本格ブレイクを果たすわけだが、現在に至る彼のステイタスは基本的にブラック・コミュニティーからの熱烈な支持によって築かれたものになる。ロビンはデビューから2012年までにR&Bチャートで6曲のTOP20ヒット(そのうちNo.1が2曲)を放っているが、その一方ポップ・チャートで20位以内に食い込んだシングルはたったの1曲。これは白人シンガーとしては極めて特異なポジショニングといえるだろう。



曖昧な境界線

ブラック・コミュニティーにおけるロビンの人気と信頼のほどは、2005年以降の彼の客演リスト(メアリーJ・ブライジ“Ask Myself”、50セント“Follow My Lead”、リル・ウェイン“Tie My Hands”、ジェニファー・ハドソン“Giving Myself”、リック・ロス“Lay Back”、R・ケリー“Pregnant”、キーシャ・コール“Next Move”、タイガ“This Is Like”など)からも窺えると思うが、こうしてロビンが〈フッドへの通行証〉を手中にできたのは、彼がマーヴィン・ゲイ流儀のダンディズムやロマンティシズムをいまに伝える超一級のソウル・スタイリストであるからにほかならない。マーヴィンの“Got To Give It Up”をモチーフにした“Blurred Lines”がR&Bチャートはもちろんポップ・チャートをも席巻する特大ヒットになったのは、ダフト・パンク“Get Lucky”やブルーノ・マーズ“Treasure”などがチャートを賑わせるここ最近のディスコ熱とうまくリンクしただけであって、ロビンの歌い手としてのスタンス自体はこれまでとまったく変わっていないのだ。

それはアルバム『Blurred Lines』にしても同じようなことが言えるだろう。デビュー以来のプロダクション・パートナーであるプロジェイをはじめ、ファレル、ティンバランド、ウィル・アイ・アム、ドクター・ルーク、キャタラクスらがプロデューサーに名を連ねる内容は、従来のロビン作品の魅力を継承しつつ、トレンドを見据えての新機軸も導入するという、非常にバランスの取れた構成。“Burn Rubber On Me”〜“Early In The Morning”あたりを彷彿とさせるギャップ・バンドのオマージュ“Get In My Way”、そして得意のファルセットが冴え渡るMJマナーのスムース・ダンサー2連発“Ooo La La”“Ain't No Hat 4 That”など、70年代後半〜80年代初頭のディスコ/ファンクのフィーリングが強く反映された楽曲を軸に、アップリフティングなEDM(“Feel Good”“Give It 2 U”)から官能的なスロウ・ジャム(“For The Rest Of My Life”)、さらには過去作でもたびたび垣間見せていたブラジル趣味(“Go Stupid 4 U”)までも忍ばせていたりと、現行シーン最前線で戦っていくにあたって一切の隙がないアルバムになっている。白人シンガーでありながらR&Bチャートで圧倒的な強さを誇ってきたロビンを取り巻く環境は、直訳すると〈曖昧な境界線〉を意味する『Blurred Lines』の登場で新たなフェイズを迎えることになりそうだ。



▼『Blurred Lines』に参加したアーティストの作品。
左から、T.I.の2012年作『Trouble Man: Heavy Is The Head』(Grand Hustle/Atlantic)、ケンドリック・ラマーの2012年作『Good Kid M.a.a.D City』(Top Dawg/Aftermath/Interscope)、2チェインズの2012年作『Based On A T.R.U. Story』(T.R.U./Def Jam)

 

▼“Got To Give It Up”を収めたマーヴィン・ゲイの77年作『Live At The London Palladium』(Motown)

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2013年08月07日 17:59

更新: 2013年08月07日 17:59

ソース: bounce 357号(2013年7月25日発行)

文/高橋芳朗