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インタビュー

森は生きている 『森は生きている』



森は生きている_A



ビルが建ち並ぶ大都会。でも、細い路地を曲がった先に、ふと時に忘れ去られたような、懐かしい風景が残っていることがある。そんな白昼夢めいた場所を〈風街〉という言葉で表したのははっぴいえんどだが、歌の向こうに同じような風景を見せてくれるバンドが現れた。〈森は生きている〉は東京で結成された6人組。自主制作でリリースしたCD-R作品が注目を集めていた彼らのファースト・アルバム『森は生きている』がリリースされたばかりだ。

「はっぴいえんどやザ・バンドが好きな奴が集まったんですけど、蓋を開けてみればそれ以外に好きな音楽はみんなバラバラだったんです。ブラジリアンだったり、フリージャズだったり、ニューウェイヴだったり」(岡田拓郎)。

その言葉通り、森は生きているのサウンドは、ルーツ色の強いアメリカン・ロックをベースにしながら、さまざまな音楽のエッセンスが織り込まれている。そして、バンジョーやフルート、オルガンなど多彩な楽器を織り交ぜて、表情豊かなバンド・アンサンブルを聴かせるのが彼らの魅力。「全員、セッションが大好きで、2時間スタジオを借りたら1時間50分はセッションしている」(岡田)だけに、初めてプロフェッショナルなスタジオを使った今回のレコーディングはバンドにとって刺激的なものだったという。

「スタジオのあらゆる楽器を引っ張り出して、その楽器を使いたいがためにアレンジを考えたりもしました。例えばレズリー・スピーカーっていうビートルズも使っていた回転するスピーカーがあるんですけど、それを使ってスライド・ギターを弾くと僕の好きなジェシ・エド・デイヴィスっていうギタリストの音になるんです。それをどうしてもやりたくて試したり」(岡田)。

そんなふうに60年代サウンドを愛しながらも、ただ当時のサウンドを再現するわけではなく、音作りやアレンジにはしっかりといまの感覚が息づいている。

「最近の音楽はあまり聴かないんですけど、ウィルコとかジム・オルークとかシカゴ周辺のアーティストは唯一聴いてます。そのあたりのアーティストは古い音楽を深く聴いていて、なおかつプロトゥールズを使ったりして現代的な要素を採り入れている。そこにすごく共感しています」(岡田)。

そんなノスタルジックでモダンなアメリカーナ・サウンドを日本語で歌う、というのはバンド結成時から決まっていた重要なこだわりなのだそう。今回のアルバムでほとんどの曲の歌詞を手掛けているのはドラムスの増村和彦だ。

「高校の頃からはっぴいえんどとか日本語ロックを聴いてきて。日本語をどうやってメロディーやリズムに乗せるか、自分なりにいろいろ研究してみました。注意したのは野暮ったくならないこと。サウンドや歌詞はいつ聴いても古さを感じさせないもの、というのはバンドのみんなが意識しているところだと思います」(増村)。

その結果、〈詞〉というより〈詩〉に近い雰囲気を持つ歌詞が、曲に奥行きのある世界観を生み出している。「歌詞を書いていくなかで、だんだん〈夢〉がテーマになってきて。夢や現実の断片が最後の“日々の泡沫”という泡(曲)で壊れていくような、そんな世界観が生まれてきた」と言う増村。夢をモチーフにした歌詞は浮遊感に満ちたサウンドにぴったりで、いつの間にか風街に迷い込んだような気分にさせられる。そういえば、この不思議なバンド名は「ドラえもん」の話のタイトルから取られたらしいが、そのことに触れて岡田はこんなふうに語ってくれた。

「その物語の最後に、ドラえもんがのび太に〈ほんの少しの間、夢を見ていたと思えばいいんだよ〉みたいなことを言うんです。そんな作品になればいいなと。捉えどころがないうちに過ぎ去っていくような」。

日本語に対するこだわりと豊かな音楽性。もしかしたら、森が生きているは日本語ロックが見た夢なのかもしれない。



PROFILE/森は生きている


岡田拓郎(ギターなど)、竹川悟史(ヴォーカル/ギター/ベースなど)、谷口雄(ピアノ/オルガンなど)、久山直道(ベース/ギターなど)、増村和彦(ドラムス/パーカッション)、大久保淳也(サックス/フルート/トランペット/クラリネットなど)から成る6人組。2012年、東京で結成。都内を中心にライヴ活動を行うなか、同年末に自主制作で発表した『日々の泡沫』が話題に。それをきっかけに多くのイヴェントに参加するようになって、認知を広める。今年に入って〈下北沢インディーファンクラブ〉、〈フジロック〉の〈ROOKIE A GO GO〉に出演して注目を集めるなか、このたびファースト・アルバム『森は生きている』(Pヴァイン)をリリースしたばかり。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2013年08月27日 20:30

更新: 2013年08月27日 20:30

ソース: bounce 358号(2013年8月25日発行)

インタヴュー・文/村尾泰郎

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