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インタビュー

Hakuei Kim

めまぐるしく、東京のスピードに併走する「ジャズ」

「ジャズとか、ジャズトリオと言う制約を取っ払って、作りたいものを作ってみたかった」と語るハクエイ・キムの新作は紛れも無い異色作だろう。まず驚かされるのが電気ピアノ、ネオヴィコードの使用だ。ネオヴィコードはクラヴィコードを改良した楽器で、弦にピックアップが付いていて、レスポンスも早い。生楽器でありながら表現の自由度が格段に上がった。

「チョーキングのような演奏が可能で、最初に弾いた時はアコギのような印象だった。シンセのような電子楽器は演奏者が変わっても音色が変わらない。でも、この楽器はその人なりの表現が出来る」

ピアノの音色や響きを大切にするハクエイの拘りはそのままに、その表現を更に広げるためのツールなのだ。例えば《Clock Work Rock》で鳴っているギターのような音がハクエイだとは誰も思わないだろう。 「ディレイかけて歪ませると、ロックギタリストが弾いてる感じにもなる。リヴァースをかけても凄く面白いんです」。高校時代にキーボードでイングヴェイ・マルムスティーンのギターをコピーをしていたというハクエイには馴染みやすい楽器でもあったのだろう。

さらに本作はレコーディングも通常のジャズとは違う発想で進めている。「ロックバンド的な発想で、スタジオの美学を追求しようと。即興性の部分は最初に基本トラックとして一発録りで録って、その後にかなりオーヴァーダビングをやりました。音色と立体感の作り方、ミックスにもかなり時間をかけました」

執拗なポストプロダクションの末に出来たサウンドは「映画を撮っている感じ。シーンを撮っていって、繋ぎ合わせて、最終的にストーリーが出来た」とハクエイが語るように、どこか映像的だ。

そして、それは「東京のサウンドってなんだろうと考えた」というハクエイの意図を形にする方法でもあった。ジャズ、ロック、プログレ、メタル、ミニマル、インド、中東などなど、様々なものが混ざりあった自身の演奏を解体再構築する節操の無い軽やかさは実に東京らしい。

そんな中でも実に緻密に音楽を作り上げられるのはこの3人ゆえだろう。「メロディよりもリフで考えた。その結果としてロックっぽくなっている」「《Jackie On The Run》の最初を、ウォーキングベースにするとジャズバンドになるから、ウォーキングベースをイメージしたパターンを作って弾くことによってジャズバンドとは違うものになっている」。

ロックを意識しつつ、時にジャズを執拗に避けつつも、ジャズメンの本能がジャズを香らせる。トライソニークの想定外にヤバい第2章から目が離せない。

LIVE  INFORMATION
『ボーダレス・アワー』発売記念ツアー』

8/30(金) ビルボードライブ 大阪
9/13(金)ビルボードライブ 東京
9/15(日)鈴鹿どじはうす
9/16(月・祝) 金沢もっきりや
9/17(火)長野バックドロップ
9/21(土)甲府コットンクラブ
9/22(日)袋井マムゼル他
http://www.universal-music.co.jp/hakuei-kim

カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2013年08月23日 20:35

ソース: intoxicate vol.105(2013年8月20日発行号)

interview&text:柳樂光隆