インタビュー

Daniel Lanois



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写真提供:カナダ大使館/Misako Terauchi



〜「音響」的自伝〜の、後記

昨年に続き、トリオ編成のバンドでビルボードライブ東京に来日した、ダニエル・ラノワ。U2、ピーター・ガブリエルら他多数のヒット作の大物プロデューサーだ。今年邦訳が発売となった、彼の著書『ソウル・マイニング 音楽的自伝』の訳者である鈴木コウユウ氏による貴重なインタヴュー。



──先日ビルボードでライヴを見させていただいたのですが、まず音量に驚きました。

「大きすぎた?」

──いやかなり静かだったのです。いわゆるロックの音量を予想していたのに、演奏が始まった瞬間、音が小さくてみんなびっくりしてました。

「あのくらいの音量があのハコには合ってたと思うけどね。本来はバンドのメンバーが自分たちで音量を調整すべきだと思うから。うちのバンドはジャズ・バンドくらいの音量だけど、それでいいんだよ」

──ギターアンプはVOXでしたよね?

「いやあれはバックアップで、50年代のフェンダー・デラックスを使ったよ。おそらく40Wくらいのやつ。ワンスピーカーだけど、60年代初期のVOXのスピーカーに代えてある。そのほうが低音への対応がいいからね。エフェクターも一個だけだったけど、結局ほとんど使わなかった。モジュレーション付きのディレイ・ペダルだ」

──かなりいい感じのディストーション・サウンドになっていたのでディストーション・ペダルを使っているのかと思いました。

「いやあれはギターとアンプの組み合わせからの副産物みたいなものだね。ライヴを見たらわかると思うけれど、ソロのときアンプに行ってボリュームを上げてたし」

──今どきそんな人はもう見ないですけどね。

「ハハハ(笑)」

──ダニエル・ラノワの音楽を聞いていると、これまでどんな影響を受けてきたのかよくわからない気がします。たとえば「この人はジミヘンの影響を受けたんだな」というような一人のミュージシャンからの強い影響を感じられないんですよ。

「60年代の音楽革命の時代を生きてきたから、ベストな音楽をラジオでたくさん聞くことができたんだよ。それにコピーが苦手だったんだ。サンタナのギター・ソロをコピーしろとか言われても全然覚えることができなくて、自分のソロを弾いたりしてたよ。それはそれで創造性の面ではよかったけどね」

──今年日本でも翻訳された自伝『ソウル・マイニング』には十代半ばからレコーディングのビジネスを始め、ある時期からスタジオを出て図書館などで録音する話が出てきますが、どうしてそうなったのですか?

「カーペットで吸音した〈デッド〉なサウンドにうんざりだったし、人々がバラバラになっているスタジオに幻滅していたんだ。それで録音する場所の〈ハコ鳴り〉に興味を持ち始めた。それがその後のU2のスレーン城での録音にも活かされたよ」

──でも録音した音がデッドでないと後からの処理が難しいですよね?

「自分にとって一番大切なのは、みんながバラバラにならないことだ。ガラス窓の向こうのミュージシャンに向かって、トークボタンを押して怒鳴るみたいなのはもう飽き飽きなんだ。みんなで同じ部屋に入って楽器を持って演奏しよう、というほうがいい。ボブ・ディランもそうやったしね。ピックアップ付きのアコースティック・ギターで、アンプは部屋の陰に置いてあるから音もちゃんと分離して録れる。そのほうがコミュニケーションにもいい。ボーカル・マイクはかなりニアにセッティングしてあるから、EVのモニターからのローランド808のクリックの音漏れも問題にはならなかったよ」

──ところで今回のトリオ・バンドのメンバーはどうやってみつけたのですか?

「ベースのジム・ウィルソンは、90年代にヘンリー・ロリンズのバンドで演奏しているのを見たんだ。彼は音楽学者でアナログ盤の専門家だよ。大学でモダン・ミュージック史を教えられるくらいのレベルだ。それに高校時代、タイピングのスピードで一番になったこともある(笑)。ドラムのスティーヴン・ニスターはレッチリのギタリスト、ジョシュ・クリングホッファーからの紹介だ。ブライアン・ブレイドが急に来れなくなったときに代わりにやってもらったのが最初だ。デトロイトのドラマーでリズムが正確でグルーブがある。ブライアンとスティーヴンは違うからどちらかの真似をするのではなく、自分の好きなように演奏してもらっている」

──今後のプランは?

「新しいレコードはかなり映画的でシンフォニックだ。かなり実験的でダブの要素もあり、ポップではないね。タンジェリン・ドリームやマイルスみたいに想像力がかきたてられる感じだ。実際のところ、ここ数年は映画とのコラボレーションをやってきていて、今考えているのは実験的映画と一緒にショーをやることだ。第一部はサイレント映画にわれわれが演奏して音を付け、第二部は通常のロックコンサートになる。これをDVD化してもいい。もうすでにトロントのフィリップ・スクエアで、ベルギーの映画監督と一緒に24スピーカーシステムを使ったインスタレーションをやった。来年には日本でもできればいいね。東京のカナダ大使館の素敵なホールも見せてもらったことだし。映像作品の応募を待っているよ」



カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2013年11月14日 10:00

ソース: intoxicate vol.106(2013年10月10日発行号)

interview & text : 鈴木コウユウ