Kenny Garrett
キイタコトガアリマスカ? ケニー・ギャレットの現在
写真提供/COTTON CLUB 撮影/米田泰久
ノンサッチ~マックアヴェニュー以降、ケニー・ギャレットは好調を持続している。スピリチュアルな力強さを取り戻したことだけでなく、作曲家としての魅力が増したことが要因だろう。本作では作曲家として、ラテンからお経までを取り込んでいるのが印象的だ。
マイルス・デイビスと一緒にフレンチカリビアンのグアドループに行った際に聴いたグウォカに魅了され、ラテンのリズムを研究し、06年の『ビヨンド・ザ・ウォール』では《Gwoka》と言う曲で、それを形にした。ロリンズを意識した《J’ouvert》はそんな研究の延長にある。
「作曲家としてラテンのリズムをジャズに取り込むことに挑戦したんだ。フレディー・ハバードがソニー・ロリンズから学んだ、それを自分が学んだ。そんな流れの中で、今、自分の《St. Thomas》を書いてみようっていうチャレンジだったんだ
そしてチューチョ・バルデスとの共演をイメージして書いた《Chucho’s Mambo》については「自分の音楽のキューバ版があったら、それはチューチョの音楽だと思う。彼の音楽には自分の音楽と同じ要素を感じるよ」と語り、自分とチューチョは影響を交換し合う存在だとも。
お経が印象的なタイトル曲に関しても、『ビヨンド・ザ・ウォール』の名前が出る。《Realization》と言う曲ではお経をサンプリングして使ったが、本作では仏教徒のヴァネル・ブラウンがピアノを弾きながらお経を唱える。
「掘り起こすと、色んなところにプレゼンスがある。日本に初めて来たときは、演歌を聴いたよ。作品には人生のあらゆる経験を詰め込む。あらゆる経験から糸口を探って作るのが自分の手法なんだ」
ただ、それはあくまで音楽として取り入れるのがケニーらしさだろう。
「日本語の“ください”は“ウエッサイ”と同じ響きで、ヒップホップのように聴こえたよ(笑)。サウンドだよ。“行ったことがありますか”の“イッタコトガ”はリズムに聴こえた。何でもオープンに聴いてるんだ」
この自然な軽やかさも実にケニーらしい。
「今は次にやりたいことを待っている。場所を空けておくと、いつか降りてくる。キリスト教には“be of the world, not in the world”という言葉がある。今はテクノロジーのおかげで、静かに降りてくるのを待つのが難しくなっている。いろんなノイズがある中で、静かに待つ体勢を整える為に、私は“プッシュ・ザ・ワールド・アウェイ”しているんだよ」