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インタビュー

鷺巣詩郎



エヴァンゲリオン・シリーズの音楽すべてを生んだ鷺巣詩郎が、オーケストラ、合唱を自在にあやつり、精緻なストリングス・アレンジ・サウンドで圧倒する! パリ・ワルシャワ・東京にてレコーディング。大集合したトップミュージシャンたちと共に、鷺巣ワールドが全開。



鷺巣詩郎とは、 結局どういう音楽家なのか?

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過去30数年間にわたり、作曲家、編曲家、プロデューサーとして鷺巣詩郎がどれほど膨大な量の仕事をしてきたのか…それはちょっとググってみればすぐにわかる。キーボード奏者/アレンジャーとしてスクエア(後にT-SQUAREに改名)をサポートした70年代末期から、小泉今日子に中森明菜、おニャン子クラブといったアイドル系を中心にクライズラー&カンパニーやタケカワユキヒデ、平井堅にCHEMISTRYにMISIAなどなど、多種多様なシンガーたちを支え続ける近年まで、彼が関わった楽曲は、まさしく“星の数ほど”である。それだけでない。彼は映画やTV番組、ゲーム作品などの音楽もたくさん手がけているし、ちょっと変わったところだと、競馬場のファンファーレまで作っている。中でも鷺巣の名を世界に広めたのは、大ヒット・アニメ『新世紀エヴァンゲリオン』の音楽だろう。

しかし、これだけのキャリアを積み重ねていながら、鷺巣詩郎の顔やプロフィールは、一般的にはあまり知られていないのが事実だ。そういう私も、先日初めてインタヴューするまでは、点的知識を持ち合わせてい程度にすぎず、トータルな人物像を描くことはできなかった。それは、鷺巣自身、裏方としてのスタンス/ポジションを積極的に引き受けてきたからでもある。

鷺巣詩郎とは、結局どういう音楽家なのか? それを本当に理解するためのかっこうのアイテムが、最近リリースされたばかりの本人名義のニュー・アルバム『SHIRO'S SONGBOOK‘Xpressions'』である。〈SHIRO'S SONGBOOK〉は99年の第1作から続いてきたソロ・プロジェクト作品シリーズであり、今回出た『SHIRO'S SONGBOOK‘Xpressions'』は、05年の『SHIRO'S SONGBOOK vers 7.0』以来8年ぶりとなる。まずは、この〈ソングブック〉プロジェクトの意義について、鷺巣はこう語る。

「僕が初めて出したソロ・アルバムは、79年の『EYES』ですが、90年代に改めて自分のアルバムを出す余力ができた時、制作費も含めてすべて独力で作ろうと決めたんです。原盤権も自分で持って。僕は元々、大規模な編成の音楽を人力でやるのが好きなので、どうしても予算が膨れてしまうし。もちろん、参加ミュージシャンも自分で決めて、僕で直に電話をかけて交渉する。つまり、誰にも気兼ねなく、自分のやりたいことだけをやる作品、というシンプルな考えで始めたのが、このプロジェクトだったんです」

といっても、可能な限り自分で仕切り、ミュージシャンたちと生の交渉をしながら作るというスタンスは、このプロジェクトに限ったことではないようだ。

「そもそも僕は、マネジメント・バリアというものが嫌いでして。たとえば映画のサントラを担当する場合も、監督と直でやりとりできないと引き受けない。自分の周りにオブラートに包まれた人間関係があるのが嫌だし、肌と音の間に、何か仲介があるのが我慢できない。メジャーの世界でもずっと、いかにストレートに仕事ができるかを大事にしてきた。早い話が、身勝手な人間なんでしょう(笑)」

音楽家としての自我と欲望に忠実に従い、余計な夾雑物を取り除き、可能な限り純粋な音楽創造を目指す。言うのは簡単だが、予算面も含めてそれを実現できる(しかも、大規模な作品を)音楽家は、今日び稀である。メジャー・シーンで十分すぎるキャリアと評価を築いてきた鷺巣だからこその有限実行だ。幸せな音楽家である。



カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2014年01月07日 10:00

ソース: intoxicate vol.107(2013年12月10日発行号)

interview & text : 松山晋也