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インタビュー

LORDE 『Pure Heroine』



率直な己の視点を世代の意見として世界に届けたロード。ニュージーランドから登場した16歳は、ありとあらゆる賞賛を浴びる17歳になった。ビールもレモネードも、目映いシャンデリアにさんざめくカフェなんかも——



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私たちの世界

先日の第56回グラミー賞において見事〈Song Of The Year〉を受賞したデビュー・シングルの“Royals”が全米チャートの首位をひた走っていた昨年11月7日。NYで17歳の誕生日を迎えたロードことエラ・イェリッチ・オコナーは、遠く海を隔てた故郷のニュージーランドに思いを馳せながら、自身のTumblrにこんなことを書き綴っていた。

〈去年の誕生日のことを思い出すと、ちょうど学校の試験の真っ最中だった。でも友達が家に遊びに来てくれて、みんなでケーキを食べて、髪の毛をくしゃくしゃにされて、ポケモンの話で盛り上がった。変な奴らばっかり。友達や家族に会いたい! でも、いまはNYでも家族みたいな人々に囲まれてる。彼らといっしょにライヴをやって、いつもいつも感動させられて、帰りはタクシーのなかでうとうとする毎日。去年のいまごろ、私はロードの名前でSoundCloudを始めて、Twitterを開設して、Tumblrのブログも立ち上げた。自分の音楽がどうなるかなんてなにもわからなくて、これでいいのかなってただそれだけ思ってた〉。

急激な環境の変化に対する戸惑いと、新しい世界が開けてきた興奮。その複雑な心境を飾らない言葉でしたためたロードの静かな独白は、〈ダイヤモンドの実物なんか見たことがない。キャデラックなんて夢の中で乗ればいい。その手の贅沢は私たちには向いてない。求めてるのは違うタイプのスリル〉と、クールにアンチ・マテリアリズムを唱えていく“Royals”の〈等身大のリアル〉をいっそう強烈に際立たせる。

「“Royals”のヒットで人生が変わったわ。こんなにたくさんの人たちがあの曲に共感してくれるなんて、思いもしなかった。“Royals”は、私自身と友達のためにつくった曲だったから。これが私たちの世界だったの。でもそれは同時に、他の大勢の人たちの世界でもあるんだってことに気付かされたわ。ミュージック・ビデオもリアルで生々しくて、私たちの生活を正確に映し出しているものにしたかった。出演している男の子たちはみんな私の学校の友達で、そのうちのひとりは私のジャケットを着てるの。私たちの地元で撮影をしたのよ。私が毎日電車に乗ってる場所でね。だからすごくオーセンティックな雰囲気があるし、ティーンが毎日やっているようなことが描かれている。いつも最高に楽しかったりグラマラスだったりするわけじゃなくて、退屈でそんなにクールじゃない日々もある、そういう日常をね」。



ティーンネイジャーであること

グラミー賞授賞式で披露した“Royals”のちょっと奇怪なステージングに顕著だったように、ロードのゴシックな魔女っ娘イメージはスティーヴィー・ニックスを、シアトリカルなパフォーマンスはケイト・ブッシュを彷彿させるが、デビュー・アルバム『Pure Heroin』で見せる彼女の表情は実に多彩で、ソロ・デビュー当時のビョークにも通じるイノセンスだったり、ホープ・サンドヴァルのような虚ろな倦怠を垣間見せることもある。もちろん、フィオナ・アップルやレジーナ・スペクターあたりの系譜を継ぐシンガー・ソングライターとして聴くことも可能だろう。

「『Pure Heroin』のテーマは〈ティーンネイジャーであること〉だと思ってる。16〜17歳で都市郊外に住んでいて、いろいろなことを感じている私の物語なの。あくまで私の人生についてのアルバムで、とてもパーソナルな内容だから、多くの人たちが共感を示してくれたことにとても驚いてる。でも、私と同世代のリスナーの心に訴えるものがあるんだと思うわ。ただ単に、田舎に住んでいる10代のコが感じる気持ちなんだけどね」。

そんなロードの音楽の独自性を探るうえで重要なキーワードになるのが、〈ミニマリズム〉だ。レイモンド・カーヴァーの強い影響を受けたという、抑制の効いた筆致で淡々と言葉を紡いでいくリリック。そしてポスト・ダブステップやエレクトロニカにインスパイアされたと思われる、装飾的要素を最小限に切り詰めた奥行きのあるサウンド・プロダクション。この大胆に簡素化された音像とそこに寄せる美意識が、『Pure Heroin』の凛とした美しさを支えているのだ。

「私の歌詞は特に短編小説にインスパイアされてるの。子供のころから読んでる作家はレイモンド・カーヴァー。彼の文章はとてもミニマルで、私のソングライティングに影響を与えていると思うわ。音楽はエレクトロニック・ミュージックをよく聴いてる。最初に好きになったアーティストはジェイムズ・ブレイクね。彼の音楽は本当に美しくて、そのミニマリズムに強く惹かれてるわ。ほかではブリアルやジェイミー・アイザック、マウント・キンビーなんかも聴いてる。でも私は、純粋なポップ・ミュージックも大好き。だって、世界を動かすようなパワフルな力が曲にあるからね。まるで魔法みたいだし、そんなことができるなんて驚異的だもの」。

幼い頃からニール・ヤングやフリートウッド・マック、スミス、ニック・ドレイク、エタ・ジェイムズ、オーティス・レディングなどを聴いていたというロードは、最近ではボン・イヴェールやアニマル・コレクティヴ、SBTRKT、ドレイクをフェイヴァリットに挙げている根っからのポップ・ミュージック・フリークだが、そういえば彼女は冒頭で紹介した誕生日のタンブラーをこんなふうに締めくくっていた。

「今日は一日オフだから、温かくして街を歩きながらスティーヴィー・ニックスとブロークン・ソーシャル・シーンを聴いて、17歳の気分を満喫して寒さのなかで自分を抱きしめたい。もし街中で私を見かけて、頭がおかしい人みたいに独り言をつぶやいていても、心配しないでね。それは、いまの状況への感謝の気持ちを表現するマントラにすぎないから」。

スティーヴィー・ニックスの“Edge Of Seventeen”とブロークン・ソーシャル・シーンの“Anthems For A Seventeen Year-Old Girl”を聴きながら、摩天楼の狭間で一人ひっそりと17歳の誕生日を祝福したポップ・ミュージックの新しいヒロインは、この日初めて世界の頂点に立ったことを実感したのかもしれない。



▼ロードのお気に入りアーティストの作品を一部紹介。
左から、スティーヴィー・ニックスの81年作『Bella Donna』(Atco)、ジェイムズ・ブレイクの2011年作『James Blake』(Atlas/A&M)、スミスのベスト盤『The Sound Of The Smiths』(Rhino)、ブロークン・ソーシャル・シーンの2002年作『You Forgot It In People』(Arts & Crafts)

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2014年02月26日 18:00

更新: 2014年02月26日 18:00

ソース: bounce 364号(2014年2月25日発行)

構成・文/高橋芳朗

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