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インタビュー

Mika Stoltzman & Steve Gadd



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「アーティストのやりたい事をちゃんと捉え、 それが最大限に実現できるようにするんだ」 ──スティーヴ・ガッド

取材した日は、ちょうどスティーヴ・ガッドの息子デュークの30歳の誕生日。インタヴューが始まる前にスティーヴとミカが仲良く、デュークに誕生日おめでとうコールを入れている。なるほど、本当にファミリアーな付き合いをしているんですね。

前作『ミカリンバ』と、新作『イフ・ユー・ビリーヴ』。NY在住のマリンバ奏者であるミカ・ストルツマンのアルバムを、スティーヴは2作続けてプロデュースしている。

「高校のころフュージョンが好きでドラムを叩いていて、スティーヴはヒーローでした。彼と最初に会ったのは、2005年にオハイオであったパーカッション・ソサエティのコンヴェンション。そのとき、彼が殿堂入りの表彰をされて、私もマリンバのカテゴリーで演奏に呼ばれていて、その際に初めてスティーヴと話し、奥さんのキャロルとも仲良しになったんです。その後、スティーヴと最初に演奏したときは、とにかく演奏していて気持ちが良くて、もう失神しそうなほど、感動しましたね」(ミカ)

「情熱はあるし、志もある。また、恐れ知らずなところもあるし、ミカは自分のやりたいことを分っている。そんな彼女のエネルギーにほだされ、これは彼女のことを手助けしなきゃ男がすたると思ったんだ」(スティーヴ)

聞けば、スティーヴに彼女のアルバムをプロデュースすることを進言したのは、ザ・ガッド・ギャングを一緒に組むなどした側近のウッド・ベース奏者であるエディ・ゴメスであったという。

「知り合ったのはスティーヴのほうが先だけど、一緒に演奏し出すのはエディのほうが早かった。彼は夫(クラシック界の著名クラリネット奏者であるリチャード・ストルツマン)と一緒にやっていたから。それでエディが私に、スティーヴはプロデュースもするからアルバムを作ったらと言ってきた。そして、スティーヴにも進言してくれました」(ミカ) ここのところ、スティーヴ・ガッドはドラマーの活動だけでなく、プロデュースでも大車輪。彼女の新作のプロデュースをした前後も、彼は自己作『ガッドの流儀』を作ったり、跳ねっ返りキューバ人打楽器奏者/歌手のペドリート・マルティネスの『ルンバ・デ・ラ・イースラ』を制作している。

「ドラムを叩くときは、その音楽の型とかダイナミクスとかを意識する。そして、その延長にプロデュースはあるとは言える。プロデュースだと自分に決定権があるので、自分から率先して試みることができるのがいいよね。あと、プロデューサーにはミュージシャンを集めるという仕事もあって、扱う対象に相応しい奏者を集めるというのは、プロデューサーの大事な役割の一つだ」(スティーヴ)

そして、『イフ・ユー・ビリーヴ』プロデュース作業について、次のようにも、彼は語る。

「もともと、マリンバはクラシックの楽器だよね。でも、ミカはもっとグルーヴを求めたいという意向を持っていたので、それに相応しい楽曲やアレンジャーを僕は求めた。だから、録音参加者に自分の人脈にある人を持ってくることだけでなく、アレンジを煮詰めることにも尽力した」(スティーヴ)

「前作の際は、何から何までスティーヴにおまかせだったんです。そして今作は、私が3年間NYで学んだものが出ていると思います。前回は、すべてオーヴァーダブの録音でした。今回はストリングスだけは後からでしたが、スタジオでみんな一緒に録りました」(ミカ)

「この手のアルバムのレコーディングはポップのアルバムとは異なる。ある程度準備はつくすけど、あとはスタジオに入ってから、音楽が自然に出てくる状況を作り出すのが肝要だ。つまるところ、私が考えるプロデューサーとしての仕事は、アーティスのやりたいことをちゃんと捉え、それが最大限に実現できるようにすることなんだ」(スティーヴ)

収められた楽曲や編曲は、彼女のために用意されたもの。チック・コリアやマルコス・ヴァーリや、スティーヴがドラマーとして参加したジェイムス・テイラー・バンドの鍵盤奏者であるジェフ・バブコらの書き下ろし曲があり、スティーヴが故ミシェル・ペトルチアーニのトリオに入っていた際に演奏した曲をスティーヴの手によりリアレンジされたものやラヴェルの有名曲を彼女自身が編曲した曲なども、そこには収録されている。また、夫リチャードの高潔な息遣いが活かされた曲もある。

「今回またアルバムを作ろうとしたきっかけが、 チックが書いてくれた曲でした(昨年メキシコで、 彼とミカはオーケストラと共演もした)。 その 1 曲をスティーヴのプロデュースで録音したら、すごくいいものに仕上がり、これはアルバムにしなきゃと思ったんです。マルコスは私もこういう音楽ができたらと思わずにはいられない存在ですが、素敵なインスト曲を書いてくれましたね。弦のアレンジもしているビル・ダグラスは夫の親友でもありますが、私も彼とは過去たくさん演奏をしていて、どんなジャンルにも変化できる才人です」

また、冒頭に触れたデューク・ガッドが作曲した曲も収められ、彼はドラマーとしても数曲参加、父親とのツイン・ドラム曲もなかにはある。そのデュークという名前は、生まれたときに大きく堂々としていたことから、付けたそう。

「一昨年に初めて彼にはツアーにも入ってもらったんですが、メロディのある、いい曲を書くんです。スティーヴから教えてもらった最たることは、人間関係で重要なことはトラストすること、というもの。それは、音楽も同様だと思いますね」(ミカ)

まずは、本人のポテンシャルや人をひきつける人間性ありき。そこから、音楽家同士の信頼関係や和が生まれ、それらを束ねた先に情緒に満ちたボーダーレス表現があり、その中央には機微あふれるマリンバの調べがあるのだ。



カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2014年03月27日 10:00

ソース: intoxicate vol.108(2014年2月20日発行号)

interview&text : 佐藤英輔