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インタビュー

青木涼子 能と現代音楽、CDとコンサート





 昨2013年夏、『Noh×Contemporary Music 能×現代音楽』というタイトルでリサイタルをおこなった青木涼子が、コンポージアムの関連企画『ペーテル・エトヴェシュの室内楽』をしめくくる《Harakiri》(1973)に出演し、新しいCDアルバムもリリースされる。 「能×現代音楽」? このプリミティヴな疑問から、青木涼子の試みに迫れれば。

──「能×現代音楽」が実現されるまで考えていたことは?

「鈴木忠志さんやロバート・ウィルソン、ピーター・ブルック、といった世界の演出家が、お能にインスパイアされた演劇をつくられています。皆さんもご存知だと思いますが、お能というのはドラマだけではなくて、音楽もある、歌舞劇なのです。これまでのコラボレーションは音楽部分が抜け落ちていると私は感じてきました。私がお能を習ったとき、先生からは音楽が一番大事だのだ、とよく言われたものです。謡が大事で、謡が謡えさえすれば、舞うことはできる、くらいの勢いでした。私もはじめてお能を見たとき、ぐわッと惹かれたのはやはり音楽だったんですね。かっこいい、と、そして、やりたい、と思った。これまでのコラボレーションでは、謡と西洋音楽の音楽構造が違うから、という理由で、謡があって、(それと別に)西洋音楽のアンサンブルがある、というふうな平行移動的な曲が多いのです。でも、もしいまやるのなら、そこをもっとアンサンブルしたい、と思いました。そうしたところは聖域のようになっていて、難しい、なかなか出来ない、といったところもあるんですね。それを敢えてやってみたいな、と」

──現代の作曲家は、内外ともに、謡を聴けば驚き、インスパイアされるでしょう。では、曲を書きたい、と思ったときにどうするか。また外国の作曲家が作品を書くことについてどう思いますか。

「皆さん、だいたい五線譜で書いてきます。でも、グラフ的な、音程をそんなにとらないようなかたちで書いてくる方もいます。難しいのはピッチとリズムです。実際、それはもうかなり不可能に近いコラボレーションなのですが、アンサンブルする、ということが目標にあるので、ある程度タテが合う曲に興味がありますね。ちょっと大変なんですけど、合わせてもらったりもして。西洋人の作曲家たちは、なんとか私が出来るように曲を書く、というかんじかもしれません。でも良いなと思うのは、彼らはお能に対する畏れも何もなく、ひとつの素材として扱うわけです。最近は日本の作曲家も、私がいろいろな作曲家とやっているのを観て、ああ、これもアリか、と、つくるようになってきたようです。はじめはやはりみんな畏れてしまう。古典があって、それに属するみたいなところがすごく多かったし。外国人の作曲家はそれを崩しに行くっていうか、それが面白いな、と」

──《Harakiri》は語りも多い作品ですよね。

「これは女優さんが謡えるようにつくられています。もとは石井眞木さんの妹さんのために書かれた曲です。楽譜はグラフィックです。なので、一番やりやすかったですね。そんなにタテを合わせるわけでもないし、比較的自由度が高かったです」

──CDには音しかない。見えない、身体が現前しない、逆に音だけ聴くことでわかるということもあります。

「しぐさや身ぶりがはいっていない作品を選んでいます。そういう作品もあるけれど、それをCDにするのはもったいない。謡っていないときに動くといったかんじでコンサートではやりました。ただ、ほとんどの曲は合わせるのが大変なので、しっかり合わせることを中心にしています。《Harakiri》は動きがあるのですけれど」

──エトヴェシュ以前の作曲家たちは世代的に、1970-80年代生まれと若いですよね。

「演劇ではなくて音楽としてお能をとらえるという話につながりますが、ものすごく方向を転換して、「能×現代音楽」は、現代音楽の方から見てみようとしたわけです。お能の方から新しいものを、となるなかなか難しい。でも、現代音楽の方から見ると、どんな新曲が生まれてもおかしくない。声明でさえ新曲が書かれているのに、なぜお能だけ書かれていないんだろう。難しい、って皆さんおっしゃるんですけど、そういう方向から行くとアリかな、と思って、始めました」

──能をコンサート形式で発表することに関して。

「活動を広く認知してもらいたい、というのがあります。能と現代音楽で新しいものをやるんです、と、説明してもはじめはなかなか理解されません。それが、たとえばフルーティスト1人と私がいるだけで何かパフォーマンスが出来る。それはすごく画期的なことだと思います。能楽だと15分のプログラムをやるだけでも8、9人は必要です。ましてやふつうにお能をやるなら20人以上。もちろんオペラに較べたらコストはかからないかもしれないけれど、ちょっとしたパフォーマンスでちゃんと新しいものが提供できて、というと、コンサートというかたちで音楽お聴かせするのは、すごく有効だな、と思えますね」



カテゴリ : Web Exclusive

掲載: 2014年06月06日 10:00

ソース: intoxicate vol.109(2014年4月20日発行号)

text : 小沼純一(音楽・文芸評論家/早稲田大学教授)