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第24回 ─ スタックスの遺産(その3)

THE STAPLE SINGERS 高潔で親しみやすいファミリー・グループ

連載
IN THE SHADOW OF SOUL
公開
2007/06/28   18:00
ソース
『bounce』 288号(2007/6/25)
テキスト
文/出嶌 孝次

 アンタイからの新作『We'll Never Turn Back』にて、ライ・クーダーのガイドに沿って米国ルーツ音楽の系譜を辿ってみせたメイヴィス・ステイプルズだが、彼女自身がその豊かな流れのなかで重要な役割を担ってきたことももっと知られるべきだろう。彼女をリードに据え、父のローバック“ポップス”ステイプルズが51年にシカゴで結成した家族グループこそ、ステイプル・シンガーズである。50年代後半からヴィー・ジェイなどにゴスペル作品を残し、60年代には社会意識の高いフォーク・ゴスペルを志向(メイヴィスは一時ボブ・ディランと交際していたことも!)、公民権運動において重要な役割を果たした。そんな一家が、ザ・バンド“The Weight”の名カヴァーも収めた『Soul Folk In Action』でスタックス・デビューを果たすのは69年のこと。彼らの資質に時代の空気や社会意識を高めていくレーベルの方向性が合致したのだろう、下掲作や『Be What You Are』(73年)などの高品質な作品を量産した70年代前半には、ロック方面への大きなクロスオーヴァーにも成功している。スタックス倒産後はカートムなどを渡り歩き、“Let's Do It Again”(75年)の大ヒットなどを経て普通のラヴソングを歌うグループとなっていった……という言い方が定番かもしれない。が、ゴスペルから普遍性をすくい上げた高潔にして親しみやすい音楽性は、その後もプリンスらの助力を得て活動を続けるメイヴィスの支柱であり続けているのだ。

『Be Altitude: Respect Yourself』 Stax(1972)
マッスル・ショールズ録音による問答無用の最高傑作。黒人の自立を促したルーサー・イングラム作の“Respect Yourself”などメッセージ性の高さで知られるが、早くもレゲエ調のアレンジを試みた“I'll Take You There”などサウンド面での新機軸もお忘れなく。

『City In The Sky』 Stax(1974)
ホーマー・バンクスやマック・ライスら馴染みのライター陣を迎え、やや暗めのトーンでディープな歌を聴かせる佳作。あまり重要視されていないようだが、出来は当然素晴らしい。ギターと鍵盤が緊迫感を纏って走る社会派ファンク“Washington We're Watching You”が白眉か。

MAVIS STAPLES 『Only For The Lonely/Mavis Staples』 Volt 
69年と70年に発表されたソロ作をパックしたもの。ソウル・シンガーであることに集中してグループとの差別化を図ったのか、サム・クックやウィルソン・ピケット、オーティス・レディングらのカヴァーを安定した歌い口でまろやかに聴かせる。

MAVIS STAPLES 『Have A Little Faith』 Alligator(2004)
いきなり2000年代の盤だが……スタックス時代を思わせるアレンジも披露しているのが本作。回顧するのではなく、しっかり当世の社会意識を備えた歌が格好良い。ちょっと文化財扱い(?)の作品が多い近年では稀に見るストレートな佳盤だ。