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PCを捨て、フロアへ出よう――究極の伝統テクノDJ、デリック・メイ

連載
Y・ISHIDAのテクノ警察
公開
2010/05/28   19:40
更新
2010/05/28   19:46
テキスト
文/石田靖博

 

長年バイイングに携わってきたタワースタッフが、テクノについて書き尽くす新連載!!

 

このコラムは、テクノにまつわるあれこれを、そこはかとなく書き尽くす……という内容(予定)だが、2010年にクラブ・ミュージックについて何かを書くのなら、DOMMUNEについて書かないのは自己欺瞞となる。DOMMUNEとは、一言で言えば〈天才・宇川直宏の元気が出る動画配信〉である。あとは各自調査でお願いします(他力本願)。

去る4月27日(奇しくもUSTREAM日本版リリースの日)に、あの、あのデリック・メイがDOMMUNEに登場し、トーク&DJプレイを決行。その結果、視聴者数は最高14,000(それまで2,000~3,000程度が限界と言われていた) に達し、一気にDOMMUNEの知名度を、及びこの〈デトロイト・テクノ三銃士〉の一角を成すアイコンのスゴさを新たなリスナー層にアピールすることとなったのだ。そこで繰り広げられたプレイはまさにデリックならではで、現在主流のPC使用DJでは見ることのできない、〈そこにツマミがあるからひねる〉的な野生のイコライジングがガンガン、繋ぎもワイルド。その非常に肉体的な手捌きは、実は初来日(たぶん94年)の時と何も変わってないのである。

当時のデリックといえばデトロイト・テクノの象徴で、あの神々しい名曲“Strings Of Life”を生み出した男。編集盤『Innovator』(いま出ている盤ではなく、かつてネットワークから出てた盤)のジャケに写る、伏し目がちに物憂げな表情を見せる風貌から、当時のテクノ好きは、デリックに対して〈物静かでインテリジェントな紳士〉というイメージを抱いていたはず。そして、それとは真逆の、タンクトップに大袈裟なアクションで大味にプレイをカマす、ズルムケ親父をデリックと認識するのに気持ちを整理する時間を必要とした94年、大阪ロケッツの夜――その様子が知りたきゃ14年ぶり(!)のDJミックスとなる『Heart Beat Presents Mixed By Derrick May × Air』を聴こう。ただプレイを録って出したよな今作を聴けば、デリックのDJ=究極の伝統テクノDJの様子がわかるから。この伝統が記録を更新したカッコ良さは、同じDJミックス・シリーズにも登場するハウスの伝説=フランソワK『Heart Beat Presents Mixed By Francois K. × Air』の、キャリア30年以上(!)とは思えないオールPC&最先端バリバリの選曲というカッコ良さにも通じる。

デリック、63年生まれの47歳。フランソワ、54年生まれの56歳。そして宇川直宏、68年生まれの42歳。年齢を並べること自体に意味はないが、テクノ・シーンを見ていると、新しい船をいま動かしているのは新しい水夫じゃないだろう、って思う。または〈オッサンなめんな〉と。そしてDOMMUNEを観ると、PCを捨て、フロアへ出ようという青臭い衝動に駆られるのだ。クラブ・ミュージックは、クラブで体感するものなんですよ、実際。

 

PROFILE/石田靖博

クラブにめざめたきっかけは、プライマル・スクリームの91年作『Screamadelica』。その後タワーレコードへ入社し、12年ほどクラブ・ミュージックのバイイングを担当。少々偉くなった現在は、ある店舗で裏番長的に暗躍中。カレー好き。