ロックに年の差はあるのだろうか? 都内某所の居酒屋で夜ごと繰り広げられる〈ロック世代間論争〉を実録してみたぞ!
僕は阿智本悟。東京・北区のサラリーマンだ。3年前の春、都会的なロックンロール・ライフに憧れて、故郷の北国から上京。だけど、〈都会的なロックンロール・ライフ〉とは似ても似つかない生活を送っている。何でだろう? 北区でもトップクラスのジミな会社に就職したのがいけなかったのか、単純に僕がバカなのか……。でもさ、どんなに会社がつまらなくても家に帰って最新のロックさえ聴ければ毎日それなりに楽しいし、上司にどれだけ呆れられたって別に死ぬわけじゃないもんね。そう開き直った僕は、今日も後輩に命令されるがままコピー機にひたすらA4の紙を補充し続ける一日を過ごしたとさ。
阿智本「よし、就業時間終わり! 今日もよく働いたぞ~!」
17時ぴったりに会社を出た僕は、久しぶりにある場所へ向かうことにした。そう、ロック酒場〈居酒屋れいら〉だ。古臭いロックばっかり聴いている白髪オールバックの口髭グラサンおやじ、ボンゾさんが数か月間の世界放浪を終えて北区に帰ってきた……という噂を耳にしたのだ。何気に〈れいら〉の梅割りとコンビーフが恋しかったんだよね。そんなこんなで、店の扉を引くと、いつぞやの改装が嘘のように元の薄汚い佇まいに戻っていた。
阿智本「おっす! ボンゾさん、久しぶり! 戻ってきたって聞いたから、遊びに来てあげたよ~。とりあえずいつもの……って、何じゃコリャ!?」
ボンゾ「おお、誰かと思ったらクズ本君じゃねえか。久しぶりだな。ところで、見ろ! この鋼の肉体美!! シビレるだろう? あ~ん?」
これは現実? 久しぶりに会ったボンゾさんが、長い白髪を肩まで下ろし、上半身裸の筋肉ムキムキな変態オヤジに変身しているじゃないか! 僕は〈れいら〉で味わう何度目かの眩暈に、少しだけ懐かしさを感じていた。
阿智本「キモイ! 〈大改造!!劇的ビフォーアフター〉もビックリの肉体改造だよ! いったい旅行中に何が起きたの?」
ボンゾ「(突然回想モード)……自分を見つめ直す旅に出た俺は、ふと自分の堕落しきった肉体を鍛え直すことを思いついた。そして、ある旧友を訪ねたんだよ。そう、ヤツの名はイギー・ポップ。本物のロックに興味がないクズ本でも、名前くらいは知っているだろう? ヤツは俺の肉体改造に快く付き合ってくれたよ。〈淫力魔人〉の名は伊達じゃねえ! ヤツは俺を1か月かけてシゴキ上げた。そして、イギーはこう言ったんだ。〈モウ、オシエルコトハナイ。コレヲモッテイケ。オレノ、コンドサイハツスルCDダ!〉とな」
阿智本「どこから突っ込めばいいのかわからなくて最後まで聞いちゃったけど、こんなヒドイ嘘は久しぶりだよ! 何だか〈居酒屋れいら〉って感じだな~(シミジミ)」
ボンゾ「バカヤロ~! 嘘じゃねえよ! 証拠にこれを聴いてみな!」
そう言うと、イギーから貰ったというCDを流しはじめた。
ボンゾ「この『Raw Power』の〈Legacy Edition〉には、しばらく廃盤だったデヴィッド・ボウイのオリジナル・ミックス版をリマスターしたDisc-1と、未発表曲や73年のライヴ音源を盛り込んだ『Georgia Peaches』っつうDisc-2が入っているんだが、特に後者で聴けるライヴ音源の凄まじさを味わえ! この暴力的な演奏こそ、俺が耐え抜いたシゴキの荒々しさを物語ってるようなもんだ。な? この俺のランボーのような肉体の秘密が垣間見えただろ?」
阿智本「確かにこの演奏は凄い迫力だし、不覚にもカッコイイと思ったよ。だけど、ボンゾさんのそのキモイ肉体とは、まったく関係ないだろ! 帰ってきて早々に胡散臭い話を捏造するなっつ~の!」
ボンゾ「だから嘘じゃねえって! ジャケットにヤツのサインがあるから、見てみやがれ!」
そういって見せられたCDの裏にはこう書かれていた──〈シンアイナルボンゾヘ。イギーヨリ〉。
阿智本「……一応突っ込むけど、何でカタカナやねんッ! もういい、帰る! バ~カ!!」
ボンゾ「オイオイ阿智本、イギーのかみさんは日本人だったんだぞッ! 俺の言ってることは本当なんだってば! あと新メニューのプロテイン入り梅割りも飲んでけって! って、まあいいか。どうせアイツは明日も来るだろうしな、ガハハ!!」。