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第61回――歌うラリー・グラハム

連載
IN THE SHADOW OF SOUL
公開
2012/10/24   00:00
ソース
bounce 349号(2012年10月25日発行)
テキスト
文/林 剛


スライ&ザ・ファミリー・ストーンで活躍し、革命的なスラップ奏法を発明したベーシスト、ラリー・グラハム。ただ、その核にあるのはゴスペルに根差した歌心であって……今回は単なるチョッパー野郎では終わらない彼の魅力を紹介します!



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ラリー・グラハムといえば、親指で弦を叩くなどしてブッチンブッチンと音を放つスラップ・ベースを世に広めたベーシスト/マルチ・プレイヤーと紹介されるのが常だろう。チョッパーとも言われるその奏法は、ラリーが参加していたスライ&ザ・ファミリー・ストーンの曲でも炸裂。“Thank You(Falettinme Be Mice Elf Agin)”におけるゴリゴリとしたベースは彼の代名詞的なプレイとしてお馴染みだ。

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が、一方で、ラリーが類稀な歌い手であったことも忘れてはならない。あのベース同様、腹の底に響くような男臭く野太いヴォーカルはグラハム・セントラル・ステーション(GCS)のトレードマークとなった。低音からファルセットまで5オクターヴあるとされる声域は、とにかくインパクト大。80年代にはその声を武器にソロ活動を始め、ルーサー・ヴァンドロスなどと並ぶバラディアーとしての名声を獲得した。〈弾く〉と〈歌う〉。これがラリー・グラハムの二大主成分である。

1946年にテキサス州ビューモントで生まれ、2歳でカリフォルニア州オークランドに移住したラリーは、母親の率いたバンドで活動後、スライ&ザ・ファミリー・ストーンに加入。72年に同グループを脱退するとホット・チョコレートという5人組バンドの面倒を見はじめるのだが、地元のクラブで行われた彼らのライヴに飛び入りでベースをプレイしたところ評判となり、自然発生的にGCSが誕生した。

キッカケはやはりベース。ワーナーと契約して発表したセルフ・タイトルのデビュー作でも当然ながら彼の演奏は大活躍している。ただし、アルバム冒頭の“We've Been Waiting”はアカペラ曲。スライ&ザ・ファミリー・ストーンを受け継ぐ集団性の強いコーラスで、まず彼らは〈歌う〉ことをアピールしたのだ。そこにはスライやパーラメントなどと同様ドゥワップやゴスペルの要素も見え隠れしたが、ピンでも存在感のあるヴォーカリスト(ラリーと紅一点のパトリース“チョコレート”バンクス)を抱えたGCSは、よりストレートなソウル(・ヴォーカル)にも対応することができた。もっともGCSにおけるラリーの歌は、ヘヴィーなファンク・サウンドに拮抗し得るそれとしての役割も大きく、コントロールは自在でも表現力に乏しい気がしなくもない。それでも、その大味とも言える歌は、アイズレー・ブラザーズ(のロナルド・アイズレー)に感化されるように徐々にファルセット率を高め、カメレオン・ヴォイス的な性格を強めて独特の魅力を放つようになっていく。

GCSは70年代後半にラリーの妻ティナを迎えたあたりから(名義的にも)ラリーのソロ性を強調しはじめている。そして、80年のソロ転向後、サム・ディーズ作のバラード“One In A Million You”をR&Bチャート1位に送り込んだラリーは、ファンカーとしての自分を極力抑え、バラディアーとしての道を究めていく。シンプルで美麗なサウンドをバックに野太い低音ヴォイスで優しくムーディーに歌い上げる様はルー・ロウルズのようでもあったし、深く甘く伸びのある歌声はジェフリー・オズボーンを思わせもした。ちなみにLTDにいたジェフリーは、82年にジョージ・デュークのプロデュースでソロ・デビュー。そのジェフリーのデビュー作にベーシストとして参加したラリーは同年の『Sooner Or Later』でデュークの力を借り、一方のジェフリーは翌年のソロ2作目でサム・ディーズとペンを交えるなど、似たような環境に身を置いてバラディアーとして互いを高め合っていたことも忘れ難い。

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85年に5枚目のソロ作を出した後は10年余りの間が空き、ラリーは90年代後半になってGCS名義と共に復活。この復活に際して世間がラリーに求めたのはGCSのファンクであり、スラップ・ベーシストとしてのそれだった。そして、NPG発の『GCS2000』(98年)から実に13年ぶりとなる新作『Raise Up』でも、彼は(ジャケットでも)ベースを手にしている。76年作『Mirror』の幕開けにも似たマーチング・ドラムで始まり、GCS名曲のニュー・マスターも収めた今作には、70年代のGCSへのセルフ・トリビュート的な意味合いも込められているのだろうか。オークランド・ファンクの後継者であるラファエル・サディークがギター&ヴォーカルで参加した“One Day”も音だけで言えばスライへのトリビュートと受け取れる。が、あの野太い歌声も聴く者の耳を捉えて離さない。特に、3曲に参加した盟友プリンスがブルージーな泣きのギターをかます“Shoulda Could Woulda”はバラディアーとしての本領を発揮した一曲だろう。〈歌う俺にも注目しろよ〉——ちょっぴりクドい歌声は、そんな気持ちを伝えているように思えなくもない。ラリーはどこまでも歌い続ける。ベースと共に歌うのだ。

 

▼ラリー・グラハム&グラハム・セントラル・ステーションのニュー・アルバム『Raise Up』(Moosicus/ビクター)