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ウアクチ『ビートルズ』

カテゴリ
o-cha-no-ma LONG REVIEW
公開
2013/11/15   10:00
ソース
intoxicate vol.106(2013年10月10日発行号)
テキスト
text : 栗本斉/旅とリズム


ブラジルのパーカッション・ユニットによる、ユニークなビートルズ・カヴァー

ウアクチ_J

ビートルズのカヴァー集。と聞いただけで、食傷気味な方は多いと思いますが、ちょっと待った! このウアクチの新作を無視しないで欲しい。これがとても不思議で心地良いアルバムになっているのだ。そもそも、さんざん手垢のついたビートルズ名曲をカヴァーするのだから、ミュージシャンは覚悟が必要。それがたたって、気合いを入り過ぎて原曲の良さがすっかり無くしてしまったり、たんなるBGMに成り下がっている残念なものも多いが、さすがにこのブラジルの怪物グループに料理されれば、ただでは済まされない。

78年にミナス・ジェライス州で結成されたウアクチは、同郷のミルトン・ナシメントのプロデュースで81年にデビューしたベテラン・インスト・グループだ。インストといっても彼らの場合は普通ではない。塩化ビニールのパイプ、木片、ガラス、鉄などを用いた様々な手作り楽器を駆使し、ガムランやスティールパンなどにも共通する独特の音色で演奏していくのだ。これまでにオリジナルの他、フィリップ・グラスのミニマル・ミュージックや舞台音楽などの作品が多く、どちらかといえばアカデミックなイメージが強いが、この新作は素材が素材だけにとにかく親しみやすい。叩いたり弾いたりして音を出す不思議な楽器の音色、そしてそれらで奏でられる耳馴染みのあるメロディは、どこか宇宙から聞こえてくる音楽のようにも感じる。ビートルズといっても中後期の楽曲ばかりで、《ゲット・バック》や《オブ・ラ・ディ、オブ・ラ・ダ》といった有名曲だけでなく、《フォー・ノー・ワン》や《ディグ・ア・ポニー》など普段あまりカヴァーされないものまでセレクトされていることも成功の秘訣だ。とにかく、チャカポコビョンビョンという音像の中からエヴァーグリーンの旋律が匂い立つ唯一無二のアルバムに仕上がっている。世の中にビートルズのカヴァーは溢れかえっているが、その中でも最もユニークで斬新でインパクトのある一作であることは間違いない。