インタビュー

ハンバートハンバート 『合奏』 PLANKTON



  昨年の『まっくらやみのにらめっこ』に打たれた方々には待望であっただろう、このデュオからの新しい便り。そのアルバムでは音楽的語彙を増やしつつ、より濃密な世界を描き出そうと試み、〈何をやろうとも僕らは僕ら〉と主張していた彼らだが、このニュー・シングルでも同じフレーズを聴くことができる。今回2人はスコットランドのトラッド・バンド、フィドラーズ・ビドとのレコーディング・セッションを敢行。そもそもブリティッシュ&ケルト・フォークの香りを感じさせる音作りはハンバートハンバートの持ち味のひとつだが、ここではトラッドなスタイルに正面から向き合って〈根〉の確認を行ったのだった。

 “妙なる調べ”(映画「プール」主題歌“タイヨウ”の原曲)“待ち合わせ”は、亜麻色の旋律がフィドルやハープの甘く深い音色と溶け合うしっとり系ナンバー。サンディ・デニーやケイト・ラズビーを彷彿とさせる佐野遊穂の歌声が心を溶かす絶品の仕上がりだが、ここには初期作品に見られた〈憧れ〉の視線は感じられず。みずからの音世界を広げようとする2人の心意気が柔らかい空気のなかで毅然として立っているような印象で、穏やかな曲ながらも何やら力強さを感じずにはいられない。特に聴きものは“波羅蜜”。疾走するフィドラーズ・ビドの演奏と2人の絡み合いが実にスリリングなこの曲、〈ケルトmeets般若心経〉とでもいうようなこのユニークなもので、ここには先に書いた彼らの主張が鮮やかに浮かび上がっている。

 といったふうに今回も濃密な便りを書き上げていた2人。たった3曲ながらも、聴き応えは十分。なお本作はDVDとの2枚組仕様で、そちらには昨年11月、フィドラーズ・ビドの来日公演に彼らがゲスト出演した模様と、シングルのレコーディング風景が収録されている。音に浸った後に鑑賞すれば、おもしろさが倍増するのでお楽しみに。

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掲載: 2009年09月09日 18:00

更新: 2009年09月09日 18:23

文/桑原 シロー