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インタビュー

HOCUS POCUS 『16 Pieces』

 

ヨーロッパ最強のヒップホップ・バンドが待望の新作を引っ提げて帰ってきた。高い前評判に違わぬ極上のビートとグルーヴはもっともっと遠くまで届くに違いない!!

 

HocusPocus -A

 

何をもって〈ジャジー〉や〈メロウ〉と表現するかの定義など曖昧だし、単にメロディアスなだけのつまらない作品もそんな言葉でごまかしてしまえるのは寂しい事実なのだが……彼らの音楽をそう表せば、言葉本来の意味や懐の深さが正しく立ち上がってくる。雑多で、実験的で、でも洗練されていて、それらすべてがテクニカルな演奏力に裏打ちされたホーカス・ポーカス(=おまじないの掛け声)の音楽に込められたものをここで紹介したい。

2002年に『Acoustic Hip Hop Quintet』という名の自主制作EPでデビューした彼らは、そのタイトル通りにヒップホップを生楽器にて表現するフランスのライヴ・バンドだ。

「グループは15年前に高校で結成したんだ。次第にメンバーは変わり、ミュージシャンも加わって、現在のステージは9人でやってる。いまのメンバーでアルバムは2枚、『73 Touches』と『Place 54』を出したよ」(ヴァンシール、MC/トラックメイカー:以下同)。

2005年のアルバムでの、ドラムス、ベース、フェンダー・ローズ、ターンテーブルによる丸みを帯びたサウンドに仏語のラップを乗せる独特の聴き心地は、当時の日本における〈ジャジー・メロウ系ヒップホップ〉のブームのなかで知られることとなった。だが、続く2007年のアルバムで魅せたのは、歌唱をメインに据えた古のソウルへのオマージュや、エキゾティックなムードを醸す多彩な音要素。それらが織り成す郷愁と映画的でさえある構成は、こちらの期待を上回りながら華麗に裏切るものだった。

「ライヴは500回ほどやったかな。うち150回は『Place 54』のツアーだ。そしてツアーと創作活動が評価されて、ディスク・ドール(フランスの音楽賞)を貰ったよ」。

もちろんここ日本でもその魅力は伝わり、ヒップホップ・プロパー以外からの幅広い支持をも得る事になる。同時期にorigami PRODUCTIONSのShingo Suzukiが彼らにアプローチし、後にライヴや作品上で共演を果たすのも、同じライヴ・バンドとして、何よりミュージシャンとして共鳴するものがあったのだろう。そしてこの度登場するのが、待望の新作『16 Pieces』だ。

「基本路線は変わっていないが、新作にはふたつの面があると思う。ひとつはヒップホップ。原点に立ち返り初期に近い感じを出した。そしてもうひとつはソウルフルでジャジーな面。アレンジもより豊かになった。ギタリストが加わってソウルっぽさが増したんだ」。

クリスピーなビートが生む疾走感、骨太でソリッドなループ感、タメと粘りの効いたファンクネス、高い演奏力による真の〈ジャジーさ〉と〈メロウネス〉、AORテイストの香る爽快さ、ブラックネスが匂い立つアリス・ラッセルの歌唱、70'sソウル風のまろやかでヴィンテージな味わい、パーカッシヴかつ滑らかな仏語のフロウ……この羅列が一枚のアルバムに収まり、そのすべてが際立って耳に飛び込んでくるのだからたまらない。ただのヒップホップ・バンドではない、ましてやクラブ・ジャズでもない。トリコロールの言葉と各々のミュージシャンシップが織り成すカラフルさは、〈ポスト・ヒップホップ〉を感じさせるジューシーなグルーヴ・ソウルへとさらなる進化を遂げたと言えるだろう。

「ミュージシャンが入って以降、ステージ上で自発性が発揮されるようになって、一種の活力が生まれた。この楽しみを知った以上、後戻りはできないね」。

そう、彼ら自身こそ、音楽のトリコになり続けている人たち。そんな彼らがホーカス・ポーカス!と唱えるおまじないを耳にすれば……誰もがたちまち魔法にかけられてしまうのです。

 

▼ホーカス・ポーカスのアルバムを紹介。

左から、2005年作『73 Touches』、2007年作『Place 54』(共にOnandon/Pヴァイン)。ちなみに本国フランスではモータウン・フランス経由でのリリース!

 

▼『16 Pieces』に参加したアーティストの作品を一部紹介。

左から、アリス・ラッセルの2008年作『Pot Of Gold』(Little Poppet)、Mr J・メデイロスの2007年作『Of Gods And Girls』(Rawkus)、アケナトンが属するIAMの2008年作『Saison 5』(Polydor France)

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2010年06月17日 19:50

更新: 2010年06月17日 19:51

ソース: bounce 321号 (2010年5月25日発行)

構成・文/池谷昌之