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インタビュー

ジョー・バルビエリ

南イタリアの静かでささやかな幸せ

大きな声で天下国家のことを歌う。そういう歌手がいてもいい。だが、別に声を張り上げなくても、大切なことを伝えることはできる。そしてどちらかと言うと、僕は小さな声で身近なことや短い物語、ロマンスを歌う歌手の方を好む。ジョー・バルビエリは、〈静かに、息をするように〉大切なことを歌うカンタウトーレ(自作自演歌手)だ。

バルビエリの音楽は、エンニオ・モリコーネやニノ・ロータの映画音楽のようにシネマチック。ただし、自作自演歌手としては、ブラジルのジョアン・ジルベルト〜カエターノ・ヴェローゾ〜セルソ・フォンセカの系譜を汲んでいて、さらにはタンゴやファド風の曲も作る。つまりバルビエリの音世界は、〈イタリア〉の枠を超えている。

「実はブラジル音楽に親しむようになったきっかけは、ブルーノ・マルティーノやセルジョ・エンドリゴといったイタリア人歌手。ブラジル音楽に影響を受けた彼らを通じて、ブラジル音楽に目覚め、やがてジョアン・ジルベルトやカエターノ・ヴェローゾなどを聴くようになり、自分にふさわしい音楽的スタイルや歌い方を発見した。その意味では、自分にとってブルーノやセルジョは、新しい扉を開いてくれた人たち。そして僕自身も、今名前を挙げた人たちのように地域性や時代を超越した音楽を作りたいと思っています」

イタリアは南北格差が大きい。バルビエリは、貧しい南イタリアのナポリ出身だ。しかし、彼の音楽は甘美で芳醇で、しかも潤いがある。また、《見上げてごらん夜の星を》のカヴァー、とりわけ『ささやかな幸せを願っている』という一節を聴けば分かるように、彼は細やかな情感を見事に表現する。《見上げてごらん夜の星を》は、東日本大震災からの復興に励む日本のために、とバルビエリが心を込めて日本語で歌ったカヴァーだ。

「僕は子供の頃にナポリ大地震を体験しているし、多くの人々が今日を生き抜くだけで精一杯という南イタリアの環境の中で生まれ育った。だから〈ささやかな幸せ〉という言葉の重みを身に染みて感じています」

最後にバルビエリから〈南イタリア人気質〉を語ってもらおう。

「南イタリアの人々は概して大らかで、人懐っこい。もしワタナベさんが、イタリア人に『今度イタリアに行くんだ』と告げるとします。そのイタリア人が南の人なら、きっとこう言いますよ。『だったら私の家に必ず寄って』って(笑)」

カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2012年07月09日 18:22

ソース: intoxicate vol.98(2012年6月20日発行号)

取材・文/渡辺亨