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インタビュー

蓮沼執太フィル



蓮沼執太フィル_A



時を奏でる、ではなく時が奏でるフィルハーモニック・ポップ・オーケストラの音楽

蓮沼執太の音楽の明るさ、透明感は、単に「明るい」「透明だ」というより「曇りもない」といったほうがしっくりくるのではないかというとことば遊びがすぎるとお叱りをうけるかもしれないが、ちょっと待ってください。この地上には、ものごとを精確にいいあらわすよりそれ以外をほのめかすことで視界が開けるような、緩叙法でしか語り得ぬ広がりが横たわっていると思えてならないと私は蓮沼執太の作品にふれるたび思ってきた。たとえば、蓮沼執太には音と映像で空間を構成し、そのなかを動くことで鑑賞者はそれぞれ固別に作品を体感する大規模展『音的 | soundlike』(2013年)があり、その2年前の初の個展『have a go at flying from music part3』といったアート作品があるが、後者の表題になった「音楽からとんでみる」は彼の初期の活動のカギでもあることばである。それらはともに音(楽)を強く意識しながら急迫するときの反動で文字通り音楽の外へ飛躍する/しかねないことさえにおわせる。「とぶ」には視界が良好であるにこしたことはない。飛躍はまたかたちを変えた逃走であり、蓮沼執太の音楽がその明快さの一方でたやすく汲み尽くせないのはそのためだろう。

「固定されたイメージを逃れすぎているのかもしれないですね。決めつけられたくないというのがほんとうに強いタイプなので。蓮沼フィルってこうだよねっていわれると、いや、こういうのもあるし、といいたくなるんです(笑)」

彼の発言にある「蓮沼フィル」とは蓮沼執太が指揮する総勢15名のフィル・ハーモニック・ポップ・オーケストラを指す。2010年、ovalのジャパン・ツアーへの客演に際し、リーダー・バンド「蓮沼執太チーム」を母体に企画されたが、以後も活動を継続し、この『時が奏でる | Time plays – and so do we.』がファースト・アルバムとなる。私はラッキーなことに彼らのはじめてライヴを目のあたりにしたが、7~8人の、いまよりずっとこぶりだった当時のフィルはバンドとフィルというフォーマットの差異を編曲にいかに表すかに意識が向かっていた。あたりまえだが。それはいまでも変わらないだろうが、結成から4年ちかく経ち、数こそけっして多くはないもののライヴをくりかえすごとに、数値化できないメンバー各自の音楽的なキャラクターがしだいにフィルに滲んでくるようになった。

「最初は楽器があって、その後にひとがついてきていたんです。いつもきっかけはそうで、この楽器がほしいからそのひとという、ひとからではないんです。チームでギターをやっていた石塚(周太)くんもフィルではベースにコンバートしているので、明確に楽器の役割をわけているんですけど、続けていくとバンドというかアンサンブルとして仲良くなるとかクセがわかるというか。ようはまとめ方の問題だと思うんですが、大人が十何人も集まって、ハタケもちがえば、基本的にまとまることなんかないとも思っているんです。でもそこに一個の音楽を置いてあげる。その結果まとまってくる。僕がまとめているわけではないんです。僕もできるかぎり同じ距離で音楽にアプローチしたいとは思っています」

もちろん集団を維持するには現実的な問題もある。なにせ、こうして話している間にも蓮沼執太の携帯はさきほどから鳴りつづけているのである。

「フィルの予定調整は僕がやっているんですね。いまも電話かかってきていましたけど、みんなわがままいうんですよ」

――ちょっとグチっぽくなりましたね。

「いやいや(笑)。そこまでやっているほうが掴めるんですよ。大袈裟なことをいうとそこまでを作曲の行為といわないとダメなんです。身体が鈍るというか」

やがて結びつきを深め、メンバーにアテ書きするようなった曲は、公演ごとに数を増やし、蓮沼フィルは『時が奏でる』で最初のたおやかな頂点を迎えることになる。2台のドラムがリズムを織りなし、3管と弦が中域を支え、マリンバやスチールパンがトロピカルな彩りを添える、彼らのアンサンブルは重層的でありながら、そこにとどまらない動的な側面をもち、音は互いに拮抗するというより戯れながら聴き手の耳を涼風のようにくすぐる。木下美紗都と環ROYと蓮沼執太の三声によることばがもたらすイメージも含め、アンサンブルは蓮沼のいう音楽を軸にした調和を志向し、ひとつの世界をつくりあげることがわかるのは『時が奏でる』がスタジオ作であることに由来するが、この世界は閉域ではない。

「時」というは音楽のいいかえですか、と訊いた私に蓮沼執太は「時間性をともなわない音楽ってあるじゃないですか。単純にいま聴いても色褪せない名盤とか未来に続くような音楽とか、もしかすると過去にもアクセスできるような音楽。そういう感じを出したかった」と答えた。いたずらに革新的ではない脈々と続く音楽史と切っても切れないとてもベーシックな音楽。そういいきれるところに蓮沼執太の総合的な強さがあるが、彼は今後音楽そのものの強さに軸足を移していこうと思う、といってもいた。蓮沼フィルの第二楽章に早くも想像を逞しくしてしまうが、その前に彼らは年末にライヴを、来年はツアーも予定しているという。

さっきの電話もどうやらその件のようだ。



LIVE INFORMATION


『HARAJUKU PERFORMANCE+ DOMMUNE』
○12/21(土)ラフォーレミュージアム原宿
www.dommune.com/harajuku2013/

『蓮沼執太 作曲:ニューフィル TPAM 2014』
○2014/2/11(土)神奈川芸術劇場大ホール
www.tpam.or.jp/2014/ 
2014年春、札幌/いわき/東京/静岡/名古屋/京都/丸亀/広島 ツアー決定!詳細は随時HPにて。
www.hasunumaphil.com/

『蓮沼執太展 個展』
○2014/2/6 (木)- 3/31(月)NADiff Gallery
www.nadiff.com/gallery/
www.shutahasunuma.com/



カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2013年12月17日 10:00

ソース: intoxicate vol.107(2013年12月10日発行号)

interview&text:松村正人