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インタビュー

三宅純 失われた記憶を喚起するような音楽とは?(2)



再び背中を押したのは、あの“3.11”だった。


アイデアを言葉にするのは簡単だが、当然ながら実際に形にすることは非常に困難を極めたという。試行錯誤を繰り返し、いったんは無謀な挑戦だと思い中断した。しかし、再び彼の背中を押したのは、あの“3.11”だった。

「東日本大震災が起こり、実際にたくさんの記憶が失われていくのを見た時に、やはりこのアルバムを形にしなくてはならないと思ったんです。すでに書き溜めていたたくさんの曲を聴き直し、絞り込んだセレクションでシークエンスを組み、これならいけると思えたので最終的な仕上げのプロセスに移りました」

日野皓正門下のジャズ・トランペッターとして栄光の道を約束され、CM音楽などで売れっ子のサウンド・クリエイターとしての地位を築いたにも関わらず、05年から単身パリに乗り込んで新しい可能性を模索した三宅純。前作『Stolen from strangers』(07年)は、“パリの異邦人”であるという現実に向き合い、多数のミュージシャンを招いて作られた。今作もその形態は継承し、楽曲が出来た段階でキャスティングが概ね決まっていたという。そのラインナップは、日本国内ではけっして考えられない国際都市パリならではのスケールだ。

「パリは、コラボレーションしたいと思っているアーティストたちが通過していく街。地理的なハンディがある東京で彼らがやってくるのを待っていても、何年先になるかわかりません。でも、ニューヨークとパリでは網を張って待ち受けていれば次々と去来してくれる。世界のハブ都市として機能しているのが、ここにいる大きな理由なんです」

たしかに参加ミュージシャンの顔ぶれを見ていると、国籍もジャンルも様々で、そこが文化交流地帯のパリならではといえる。例えば、前作に引き続き大きな役割を果たしているアート・リンゼイとピーター・シェラーもその代表的なメンツだ。

「彼らとは長い付き合いですね。89年にニューヨークにミックスの仕事で行った際、当時アンビシャス・ラヴァーズで活動していたピーター・シェラーが隣のスタジオで仕事をしていたんです。それで意気投合し、その後すぐにピーターの相棒であるアート・リンゼイにも会って、お互い行き来するようになりました。以来、彼らは僕のアルバムの常連です」

同じく、前作にも参加していたブルガリアン・ヴォイスのエキゾチックなコーラスも印象に残る。

「80年代に初めて聴いて衝撃を受け、いつか自分の音楽に活かせたらと思っていました。パリに拠点を移してすぐに受けたアニメのサントラ『牙』の仕事で知り合うきっかけがあり、それ以来様々なプロジェクトに参加してもらっています。実は今、ピナ・バウシュ音楽祭とウィーン・ラジオ・フィルの招待でツアーをしている最中なのですが、ブルガリアン・ヴォイスも同行しているんですよ」



カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2014年01月21日 10:00

ソース: intoxicate vol.107(2013年12月10日発行号)

interview & text : 栗本斉(旅とリズム)