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インタビュー

三宅純 失われた記憶を喚起するような音楽とは?(3)



各作品に参加するユニークで、豪華過ぎるミュージシャンたち


そして本作の山場のひとつが、唯一のカヴァー曲である《A dream is a wish your heart makes》。50年代のディズニー映画『シンデレラ』で歌われたスタンダード・ナンバーだが、元トーキング・ヘッズのデヴィッド・バーンが、ハリウッド映画さながらのゴージャスなストリングスに乗せてまるでクルーナー歌手のように歌い上げている。

「2002年頃、ハル・ウィルナーが古いディズニー映画の曲を題材にしたアルバムをもとにライヴを企画し、ロンドンとニューヨークで公演したのですが、僕はアレンジャーとして招集されたんです。その時、デヴィッド・バーンはニューヨーク公演にゲストとして参加しました。今回収録したのはその時僕がアレンジしたそのままのもの。終演後、いつか録音できたらいいねと話していたんですが、今回この曲を活かせる機会だと判断しました」

さらにユニークなのがニナ・ハーゲン。このオペラチックなテイストを持つジャーマン・パンクの女王は、レゲエ・ビートが効いた《Laminin》に参加。歌詞も手がけている。

「この曲は、当初グレイス・ジョーンズをイメージして書いたんです。でも、レコーディングのタイミングが合わない事がわかって、彼女に匹敵する存在感とインパクトのある歌手を考えた時に浮かんだのがニナ・ハーゲンでした。彼女は僕の書いたメロディの周りを旋回するような独自の節回しを付けたので、もし今後グレイスが原曲通りに歌ったとしてもまったく別の曲に聞こえるかもしれません」

他にも、前作から引き続き参加した元ビッグ・サーのリサ・パピノー、ピナ・バウシュとのコラボレーションで知られるメヒティルド・グロスマン、ブラジルの若き至宝ヴィニシウス・カントゥアーリア、そして我が国日本代表のおおたか静流など、世界各国の個性派が集まって作られている。この手法は前述の通り前作と同じだが、その聴感はどうも違う。サウンド面で明確なところは、新作にはストリングスとハープのコンビネーションを多用し、古いハリウッド映画のようなノスタルジックな音響設計が施されていることだろう。そして多国籍とはいえ、ワールドミュージック的な味付けで空間を広げるというよりも、メロディや音色が持つ時間の感覚を深く掘り下げることに主眼をおいているような印象が残る。英語やドイツ語の歌の合間から、急に日本語の歌詞が飛び出してくるような演出も、狙ったものではなくあくまでも自然な流れだ。おそらく前作では“異邦人”がテーマだったため、言葉に対しても意識的ではあったかもしれないが、今作はそのことさえも“記憶が流れ込む劇場”へ集約することで、言葉の意味を越えた音楽世界を作り上げているのだ。



カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2014年01月21日 10:00

ソース: intoxicate vol.107(2013年12月10日発行号)

interview & text : 栗本斉(旅とリズム)