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特集 「9月」 チャイコフスキーからバルバラまで、5つの9月の歌をご紹介

特集 9月

9月、暑かった夏も終わり、涼しい風が物寂しさを感じさせる季節。趣きに富んだ季節は多くの詩人たち、音楽家たちの創作意欲を掻き立ててきました。ここでは、チャイコフスキーからバルバラまで、5つの9月の歌をご紹介いたします。
(タワーレコード 商品統括部 板倉重雄)

チャイコフスキー「9月」


【参考動画】チャイコフスキー:四季~9月「狩り」
オルガ・シェプス(p)

まず初めにロシアの大作曲家チャイコフスキー(1840~93)が1875年に作曲したピアノ曲「9月」をご紹介します。この曲は、月刊誌「ヌーヴェリスト」の企画依頼で、1カ月に1曲ずつ1875年から翌年にかけて作曲された中の1曲で、1885年に『四季』(原題:Les Saisons)として12曲まとめて出版されました。この「9月」は歌詞が付いていないものの「狩りの歌」の副題をもち、ピアノによる無言歌となっています。曲からファンファーレ風の狩りのリズムが、狩りに出かける楽しさや高揚感を表出した、ト長調の活気ある輝かしい作品です。

YouTube動画にはロシアのピアニスト、オルガ・シェプスの演奏を挙げましたが、彼女はまだこの曲をCDに入れていません。CDでおすすめしたいのは、ロシア出身で日本で活躍するイリーナ・メジェーエワと(WAKA-4194)、やはりロシア出身のニコライ・ルガンスキーの録音です(AM215)。両者とも「9月」の輝かしい高揚はもちろん、ロシアで生まれ育った者にしかわからない微妙な季節の移り変わりと行事を、細やかな情景描写で演奏しているからです。この曲には、後に旧ソ連の指揮者・作曲家のアレクサンドル・ガウク(1893~1963)が管弦楽編曲をした版も有名です。ガウク自身による1953~54年のモノラル録音がCD-BOXとなって10月に復活予定です(AN109)。デジタル録音で聴きたい、という方には、エストニア出身の巨匠ネーメ・ヤルヴィによる録音がおすすめです(CHAN9514)。

フォーレ「9月の森で」


【参考動画】フォーレ:9月の森で
シリル・デュボア(テノール)
トリスタン・ラエ(ピアノ)

19世紀後半から20世紀初頭にかけて活躍したフランスの作曲家ガブリエル・フォーレ(1845-1924)の歌曲「9月の森で」をご紹介いたします。19世紀フランス詩人カテュール・マンデス (1841-1909)の詩に、1902年にフォーレが曲をつけたフランス語の歌曲です。中央ヨーロッパは冬が長く、9月といっても晩秋の趣きです。マンデスは9月の年老いた森が、同様に人生の晩秋を迎えた主人公に、今年初めての「枯れ葉」を友情の証としてプレゼントする様子を歌っています。フォーレは年老いた寂しさと感慨を、平静な音楽の流れと、穏やかな色彩の中で、美しく、味わい深く表現しています。

CDは最近発売された三人の男声歌手による録音が何れも素晴らしい歌唱を示していておすすめです。一人目はフランスのテノール歌手シリル・デュボアです。参考映像にあるように、柔らかく美しい歌声と詩情ゆたかな表現に魅せられます。この3枚組は、一人の歌手による「フォーレ歌曲全集」録音という、おそらく史上初となる試みとしても話題となりました。二人目はマルク・ブーシェ。カナダ出身の美声のバリトン歌手です。戦前の名歌手ピエール・ベルナックを思わせる端正かつ知的な歌唱が魅力的です。この録音はATMA Classiqueの『フォーレ: 歌曲全集(4枚組)』(ACD22741)に含まれるもので、ピアノのオリヴィエ・ゴダンが1859年製エラールピアノを用いて、往時の響きを蘇らせていることでも話題となりました。三人目はオランダのバリトン歌手トーマス・オリーマンスによるものです(SIGCD472)。「ジェラール・スゼーの再来」と称される通り、格調高い歌いぶりが作品の内容を深く表現してゆきます。ピアノを歌曲伴奏者として名高いマルコム・マルティノーが務めています。女声歌手ではフレデリカ・フォン・シュターデ(メゾ・ソプラノ)とジャン・フィリップ・コラール (ピアノ)による名盤(WPCS-50529)が出ていましたが、残念ながら現在廃盤となっています。


ワイル「セプテンバー・ソング」


【参考動画】ワイル:セプテンバー・ソング
1950年の映画「旅愁(September Affair)」より
ウォルター・ヒューストン(vo)

「セプテンバー・ソング」は、クルト・ワイル作曲、マックスウェル・アンダーソン作詞の1938年のブロードウェイ・ミュージカル『ニッカボッカ・ホリディ』の挿入歌です。ワイルはドイツで生まれたユダヤ人作曲家で、ドイツ時代はクラシックの作曲家として活躍しましたが、ナチス・ドイツの成立によりアメリカに移住。アメリカに移住後はミュージカルの作曲家として15年間に20以上のミュージカルを作曲しました。『ニッカボッカ・ホリディ』は17世紀のニューヨークが、まだニューアムステルダムと呼ばれていた時代の物語です。挿入歌を歌ったウォルター・ヒューストンはカナダ生まれの俳優で歌手ではありませんでした。そのためこの曲は声域の広さが要求されず、かえって誰でも口ずさめる親しみやすいメロディが生まれました。歌詞の内容は、明るい夏が終って九月に入る季節の変わり目、日が短くなるこの時期を人生や愛の感情に重ね、人間が無意識に感じる感傷を表現しています。このミュージカル自体は上演されなくなってしまいましたが、この挿入歌は1950年の映画「旅愁(September Affair)」で取り上げられて以来、一躍有名となり、さまざまなポピュラー歌手がカヴァーするようになりました。

ご紹介するのは大阪出身で、パリ国立高等音楽院に学んだソプラノ歌手、奈良ゆみさんによる歌唱です。この曲は男性よりも声の高い女性歌手が歌うとロディの美しさが際立ち、海外盤ではウテ・レンパー(廃盤)やワイルの妻、ロッテ・レーニャ(NOT3CD157)の盤が有名です。しかし、ワイルの作品や生涯を深く研究し、艶やかでな歌声とともに旋律美と味わい深い内容をともに描き出した奈良ゆみさんの歌唱は、同じ時代に同じ日本で生きるわたしたちにとって最も親しみやすいものと言えるのではないでしょうか。また、このメロディをヴァイオリンで演じたダニエル・ホープ盤(4796922)もおすすめです。ヴィヴァルディの《四季》と、様々な作曲家による12カ月の名曲をカップリングした好企画盤で、9月にワイルのこの曲が選ばれています。


R.シュトラウス「4つの最後の歌」~9月


【参考動画】R.シュトラウス:9月(「4つの最後の歌」より)
Veronika Dzhioeva (soprano)
Novosibirsk Philharmonic Symphony Orchestra conducted by Alim Shakh

リヒャルト・シュトラウス(1864~1949)が最晩年に作曲した管弦楽伴奏歌曲集「4つの最後の歌」から「9月」です。ソプラノのための作品で、作曲者84歳の1948年に作曲されました。4曲からなる2曲目ですが、作曲は4曲中の最後、9月20日に仕上げられました。詩はドイツのノーベル賞作家、ヘルマン・ヘッセ(1877~1962)が1927年に書いた「9月」。1927年はヘッセが問題作「荒野のおおかみ」を上梓した年で、50歳という人生の「9月」にあたっていました。 秋の訪れの早いヨーロッパの季節感を反映した詩となっていて、晩年のシュトラウスとしもは自らの生涯を重ねる思いもあったのだと思います。シュトラウスは、この曲を1906年に建てられたモントルーのホテルで書き上げました。フェアモント ル モントルー パレス(Fairmont Le Montreux Palace)はレマン湖畔に位置し、伝統的でエレガントな雰囲気をもち、湖とアルプスの素晴らしい景色を望むことができます。この曲の最後のホルン・ソロなどは、アルプスの夕暮れを思わせるような美しさをもっています。

名曲だけに数多くの名盤がひしめいています。LP時代から有名なのはシュヴァルツコップとセル(WPGS-50113)やヤノヴィッツとカラヤン(UCCG-4626)ですが、シュヴァルツコップ&カラヤンという、この2つを集約したようなライヴ録音も存在します!1956年6月20日、ロンドン、ロイヤル・フェスティヴァル・ホールでのライヴで、CD時代になってから初めて発売されました。カラヤンはホルンの伝説的名手デニス・ブレイン(1921~1957)のソロを曲の最後にもってくるため、通常2曲目に演奏される「9月」を4曲の最後に演奏しました。現在定着している曲の順番は作曲者の意思でなく、1950年のフラグスタートとフルトヴェングラーによる初演時も異なった曲順だっただけに、カラヤンによる曲順変更の試みもこうした経緯を反映しています。そして何より、そのブレインによるホルン・ソロが抜群の美しさなのです!現在、5枚組ボックス(2564633629)でしか入手できませんが、モノラルながら当時のライヴ録音としては音質も良く、ご興味のある方にはぜひ聴いてみていただきたいと思います。近年の録音では、ドイツの美しきソプラノ歌手アニア・ハルテロスと巨匠ヤンソンス&バイエルン放送響による2009年録音(900707)が、どこまでも伸びてゆく美声を駆使して抒情美の極みを聴かせていて、バックのオケも実に雰囲気豊かでおすすめです。


バルバラ「9月(なんて美しい季節)」


【参考動画】バルバラ:9月(なんて美しい季節)
カメリア・ジョルダナ(vo)
アレクサンドル・タロー(p)

フランスのシャンソン歌手、バルバラ(1930~1997)が1965年に作詞作曲した「9月(なんて美しい季節)」Septembre (Quel Joli Temps)をご紹介します。この曲は、近年クラシックの歌手が手掛けるようになるほど、メロディーが柔らかく明暗に富んだ美しい作品です。また、歌詞の内容も若い女性の心情を歌ったもので、先のヘッセやシュトラウスとはかなり趣きが違っています。歌詞の内容は次のようになります。美しい9月のある日、ある女性が恋人と別れます。恋人は船に乗って行ってしまいます。別れの日は、ほんとうにいい天気。そんな日の別れ。でも春(来年の5月)にはまた逢えるかも、と歌っています。ヘッセやシュトラウスが「9月」に自分の人生を想い、来るべき死を「冬」に重ねているのに対し、また季節が巡って楽しい春が来ると歌っているところに、彼女が作曲当時35歳だったことを思い起こします。

バルバラ没後20年の2017年にフランスのピアニスト、アレクサンドル・タローが企画したトリビュート・アルバム『Barbara』(9029575915)が発売されました。タローは現代フランスを代表する豪華なゲストを招待し、彼独自のアレンジで聴かしてくれます。「9月」は、女優としても活躍している25歳のカメリア・ジョルダナが歌い、伴奏はタローが一人で演じています。YouTubeのプロモ画像にある通り、彼女はハスキーヴォイスで、語るように、表情豊かに歌っています。他の曲目でも、アコーディオンのローラン・ロマネリ、クラリネットのポルタル、モディリアーニ弦楽四重奏団など、世代やジャンルの異なるさまざまなアーティストが参加して、フランス文化の香りを濃厚に醸し出してゆきます。


カテゴリ : Classical

掲載: 2018年09月06日 00:00

更新: 2022年08月31日 18:00