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引退を表明したアーノンクール最後の録音~ベートーヴェン“運命”&第4

アーノンクールの“運命”

今年5月にウィーンのムジークフェラインザールで行なわれ、ソールドアウトとなったウィーン・コンツェントゥス・ムジクス(CMW)によるムジークフェラインの定期演奏会のライヴ・レコーディングである、ベートーヴェンの交響曲第5番「運命」と第4番。もともとはアーノンクールにとって2度目の「ベートーヴェン:交響曲全集」の第1弾となる予定でしたが、12月5日、86歳の誕生日の前日に演奏活動からの引退を表明したことによって、60年以上にわたって音楽界を牽引してきたニコラウス・アーノンクールにとって生涯最後のレコーディングとなります。大きな話題となった2014年発売の「モーツァルト:後期三大交響曲」(SICC30170~1)に引き続き、これまでの音楽観や既存の解釈とは全く隔絶したところで打ち立てられた、巨匠ならではの箴言といえるでしょう。

1991~92年の交響曲全集録音[テルデック]、2007年のライヴ映像(第5番)[シュティリアルテ・エディション]はともにヨーロッパ室内管弦楽団との録音であったのに対し、今回1953年の創設以来自ら手塩にかけてきたウィーン・コンツェトゥス・ムジクス(CMW)との初めての(そして最後の)ベートーヴェン録音である点が最も大きな特徴です。アーノンクールは長文のライナーノーツの中で「今回再録音に踏み切ったのは、ピリオド楽器の使用が一番大きい」と語っている通り、当時の楽器の特性や響きを知りつくしていたベートーヴェンがあちこちに仕掛けた独特の響きがこれまでにないほど徹底的に掘り起こされています。

今回の演奏と録音に当たっては、いつものように自筆譜やさまざまな出版譜を含む一次資料を丹念に洗い直し、「ベートーヴェンの楽譜には何も足さない」というストイックな姿勢も貫かれ、「まるで映画のフラッシュバックのよう」とアーノンクールが語っている通り、ベートーヴェンの指示に従って第5番の第3楽章の主部の繰り返しも実施されています。同じく第5番第4楽章で登場するトロンボーンの驚くべき強調、ピッコロの独自のバランス、そして何よりも最後の和音連打のタメは、おそらく作品の初演に接した聴衆の驚きを想起させるほどの衝撃といえるでしょう。第4番もこれまでにないほどの重量感を持ち、「北欧神話の巨人に挟まれた優美なギリシャの乙女」というシューマンの言葉をも覆すほどの個性的な相貌を獲得しています。

アーノンクールは2016年6月から7月にかけて、シュティリアルテ音楽祭でCMWとベートーヴェンの交響曲全曲の演奏を行なうことになっていました。またその前の2016年3月には第8番・第7番、5月には第9番を取り上げる予定で、順次ソニー・クラシカルによってレコーディングされる予定でしたが、今回の引退表明によって、それもキャンセルとなりました。

日本盤ライナーノーツには、アーノンクールによる8300字のコメント全日本語訳のほか、寺西肇氏による演奏論、それからアーノンクールによるベートーヴェン演奏史をまとめた表が掲載される予定です。

ニコラウス・アーノンクールは1929年、ベルリン生まれのオーストリアの指揮者、チェロ奏者。 ウィーン交響楽団のチェロ奏者をつとめるかたわら、古楽、古楽器の研究・収集にも力を注ぎ、1953 年にウィーン・コンツェントゥス・ムジクスを結成。1970 年代からは指揮者としての活動も本格化し、チューリヒ歌劇場、コンセルトヘボウ管、ヨーロッパ室内管との演奏・録音を積極的に行う。作品の原典資料に当たり、常に音楽の意味を問い続けてきた唯一無二の音楽家。2015年12月、演奏活動からの引退を表明。(ソニーミュージック)

[収録曲]
ベートーヴェン
1.交響曲 第4番 変ロ長調 作品60
2.交響曲 第5番 ハ短調 作品67「運命」
ウィーン・コンツェントゥス・ムジクス[オリジナル楽器使用]
指揮:ニコラウス・アーノンクール

[録音]2015年5月8日~11日、 ウィーン、ムジークフェラインザール
[レコーディング・プロデューサー]マーティン・ザウアー
[レコーディング・エンジニア]ルネ・メラー

既発売盤とのタイム比較
交響曲第4番 1991年 2015年
第1楽章 12:28 12:29
第2楽章 09:25 09:28
第3楽章 05:46 06:01
第4楽章 06:51 07:01
トータル 34:29 34:58

交響曲第5番 1991年 2015年
第1楽章 07:23 07:24
第2楽章 10:00 09:06
第3楽章 08:22 08:18
第4楽章 10:57 10:57
トータル 36:41 35:41

カテゴリ : ニューリリース

掲載: 2015年09月03日 11:00

更新: 2015年12月08日 19:00