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ayU tokiO『新たなる解』発売記念インタビュー

ayU tokiO

猪爪東風(イノツメアユ)によるユニットayU tokiOの初のフル・アルバム「新たなる解」がリリースされた。ソングライティング、アレンジ、録音において、これは確実に次のステップというか、作品としての充実度が上がったな、と素直に感じることができる傑作に仕上がった。前作のミニ・アルバム「恋する団地」(2014年)がリリースされたタイミングでもインタビューしたのだが、そこで感じたのはアユくんの、人と繋がっていく力の強さ。楽器のリペアを職業としているという理由もあるのだろうが、様々なミュージシャンと繋がり、自作の中に持ち込み、音楽性を拡張していく、そんなイメージ。ayU tokiOは現在型のシティ・ポップとも言われるが、「シティ・ポップ」という言葉を取り巻く環境もこの2年で様変わりした。そのあたりも含めて、新作の話を中心に訊いた。

インタビュー:吾郎メモ

 

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――前作のミニ・アルバム「恋する団地」から2年くらい経ったと思うんですが、その間にミュージック・マガジンで「Ceroと新しいシティ・ポップ」という特集がありまして、ディスク・ガイドの中にayU tokiOもあったんですよね。ここに入っているグループはいろいろあって、もともとこの「新しいシティ・ポップ」という括り自体に多様性を含んでいたというか、この時点ではシティ・ポップ的であったと言えるバンドも色々な方向へ行き始めていると思うんですよね。この2年くらいの間に。その中でayU tokiOの新しいアルバムを聴いてみて、その「新しいシティ・ポップ」の中にあって、意外にもシティ・ポップのど真ん中を突き進んでるんじゃないかな、と思ったんですよ。

「そうですか」

――そういう感覚は自分では持ってたりしますか?

「おっしゃるところのシティ・ポップというのはどういう感じのものなんでしょうか?」

――僕の思っているシティ・ポップっていうのは、ミュージック・マガジンで特集されたような「新しいシティ・ポップ」ではなくて、元々あったシティ・ポップ。

「日本の、70年代おわりから80年代前半くらいのものですか?」

――そうそう、そういう音のど真ん中を行ってるなー、と思ったんですけど。というのが第一印象としてありました。で、もうひとつ大きな印象としてあったのは、「ポップス」。ここで言うポップスという考え方の中にはビーチ・ボーイズだったり、A&M、ま、カーペンターズとかも含まれると思うんですけど、そのようなポップス。一方で、新しいシティ・ポップと言われるような人たちには割ととソウル、ブラック・ミュージック、ヒップ・ホップとかを取り入れたうえでの今のシティ・ポップというのがあると思うんですよね。で、ayU tokiOに関してはど真ん中って言ったのは、もともとのシティ・ポップにもソウルの要素もあると言えばあるんだけど、AORに見られるような白人解釈を経由したソウルみたいな感じかな。
その上で、すごい面白いなって思ったのは、ポップスの中でも日本の70年代のシティ・ポップ、それに加えて斉藤由貴とか太田貴子とか、あと松田聖子とかも含まれると思うんだけど、作家が作った80年代アイドル・ポップスの要素もあったりして、そういうポップスを煮詰めてバート・バカラックとか、本当の王道なところに向かっているようなところもあるのかなーと思って。そういう「作家」としての作品みたいなのを感じたんですよね。そういう意味でシティ・ポップのど真ん中っていう言い方をしたんだけど。、、、自分ばっか喋っちゃってるけど(笑)

「あ、いや、いいです。聞きたいです。すごくうれしいです。確かに、黒人音楽はあまり自分は聴いて来なかったので、白人の方に興味があったというのは思い切り作品に出るだろうと思います。黒人の人たちのことを、、、誤解されるようなことを言いたいわけじゃないんですけど、、、彼らの文化って(アメリカで言うところの)ゲットーなところから発信されているような感じがするというか、そして、それを消化させている白人たちというのが居たりして、そのフィルターを通して出てくるみたいなところに面白さを感じて音楽を聴いているところはあるかもしれないです。なにかと、プリミティヴなものより俗っぽくなって行ったものの方が好きというか。そういう音楽の方が好きだし、ポップというか商業的な良さ、みたいなものもあるなぁというか。そういう音楽をやりたいな、と思っているので、そういう感じが出てたら嬉しいなぁと思います。」

――言ってみれば、ラジオとかテレビとかで普通に流れるような音楽っていっぱいあって、その中でもいいものはいっぱいあるよね、っていう話だよね。

「そうだと思います。テレビ好きっていうのはものすごいあるので。僕が少年時代にテレビ見てて、たまに飛びぬけた変人が映ったりするじゃないですか。そういうのをいいなぁって思ったりしてたので。俗っぽい音楽って言われがちなものの中でグッとくるやつを探すというような聴き方を続けてたかもしれないです。」

――このアルバムっていうのは、けっこう曲によってメンバーが変わったりしてますよね。

「そうですね。」

――それは、そういうメンバーと時間を掛けて曲を作っていった感じなんですか?

「アレンジのことですか?」

――アレンジだったり、録音だったり。

「大きなアレンジのことはいつも一人で考えています。今回のアルバムに関してはまず曲ごとのアレンジのスタイルを考えるところからはじめました。曲を何個かのグループに分けて考えて、「これとこれはホーンのアレンジを加える曲」「これとこれはベーシックだけで完成させる曲」「これとこれはストリングスやフルートを加える曲」とはじめに決めて、デモの段階で一人でアレンジをしっかり考えながら作っていきました。それが出来てからドラム、ベース、キーボードのメンバーとスタジオで少し合わせて全体像を確認して、自分の中でまとめてからレコーディングスタジオを使うスケジュールを立てて、ベーシックを録音して、その後はいろんな場所に人を呼んだり、こっちから行ったりしてダビングを重ねていった感じです。時間は結構かけたと思います。」

――いま出た話の中で、ホーンって話が出たと思うんですけど、ホーンっていままで無かった要素だと思うんですよね。いままでも編成が大きくなったり小さくなったりっていうのはあったと思うんですけど、それってストリングスが加わったりっていう形だったと思うんですよね。今回のアルバムだとホーンがけっこう入ってて、白人を経由したソウルっぽさっていうのはそういうところに感じたというのもあったんですよね。ふわっとしたA&M系の香りというか。ホーンを入れるようになった心境っていうのはどういうところだったんですか?

「今回ホーンセクションのレコーディングにお誘いしたのは、ワック・ワック・リズム・バンドの國見さんと三橋さんのお2人だったんですが、以前に國見(智子)さんがスロッピー・ジョーでトランペットを吹いているのを見た時にすごく好きになって、ペイル・ファウンテンズのトランペットみたいに朗々と吹く感じの音が欲しいと思って声をかけました。ワックワックのホーン・セクションとしてお二人を誘ったというよりかは、まずはソウルというよりかはネオアコ的な一要素として國見さんのトランペットの音を入れて欲しかったという感じですが、結果的にお二人のホーンセクションはやはり最高にソウルでした。」

――ペイル・ファウンテンズもバカラックに通じるところあるからね。

「バカラックに通じるパンクバンドだと僕は認識しています。」

――なるほどね、ここで聴けるホーンはスカ的な鳴りじゃないもんね、録り音がすごくやわらかくてさ。

「一生懸命遠く柔らかい感じで録ろうって思ってやってたんですけど、なかなか大変でした。」

――なんかふわぁ~っとした感じでいいよね。

「そう、できる限りふわぁ~っとさせたいと思って。」

――再録になると思うんだけど「夜を照らせ」って、インストになってて個人的にはすごい良かったんだけど、インストの曲を入れようってのはなんか考えがあったんですか?

「フルートの音の使い方をすごい意識したんですけど。」

――ジャズの要素もかなりあるな、と思って。

「フルートをメロディーに持ってくるのがいいな、と思ったんですよね。」

――ジャズ的なネオアコっていうジャンルがあるっちゃーあるんですが、それに近いのかな、と思って。

「ああ、あんまり意識はしなかったんですけど、それは。」

――自分で歌ったりだとか、maxさん(元Wiennersのvo/key)だったりとか、インストだったりとか、って振り幅があるんですけど、自分のことをメイン・ヴォーカリストとして据えていない、っていう感じはありますか?

「自分をヴォーカリストとして据えるっていうのも、少しずつ意識は上がってきたんですけど、今はそういう感じじゃないってことかもしれないですね。でも詩人の血の辻睦詞さんと知り合って歌のこと色々話しをするようになってから、ここ1年位で、歌うっていいな、と思うようになったんですけど。」

――辻睦詞さんって現在は中央電化ドクターっていう名義でやってるんですね。

「中央電化ドクターは今、辻さんと、ラブ・タンバリンズのベースだった平見さんとノア・ルイズ・マーロン・タイツのアコーディオンの(松本)依子さんの3人なんですけど。辻さんはネオアコとソフト・ロックの鬼です。」

――さっき、作家が作るアイドル歌謡という話をちょっとしたんですけど、こういうのってけっこう掘ったりしてるんですか?シングル曲じゃないアルバム収録曲がいいよね、って話があったりしたんですけど。

「そんなにガンガン掘るって感じじゃなくて、誰かが曲を提供しているとかそういうのがきっかけで興味を持つというか。」

――クレジット見て買うとか。

「そうですね。あとレーベル見たりとか、年代とか。」

――けっこう80'sを聴いてるのかな。

「70年代の歌謡曲はあまり聴いてないんですよ。70年代後半から80年代中頃くらいの方が自分は好きなのかな。」

――80年代ものって録音自体はけっこうハイファイじゃないですか。70年代のものを好きな人だともっとファットというかデッドな感覚を持つと思うんですよね。そういう意味では80年代的な録り音を目指しているのかな、とは思った。

「前作の7インチで「犬にしても」っていうのがあったんですけど、それを録ったときは、音楽性とかとは微妙に離れるんですけど、YAMAHAの2004年製のハードディスクのMTRを使って録音を完パケたいという思いがちょっとあって。それで録ったんですよね。そこで録ってた音が気に入ったので、その延長でデジタルで録音をしてみようって思って。それと、mixエンジニアさんとのやりとりの関係で、自分が新しいDAW (Digital Audio Workstation)ソフトを導入したんですよ。デジタル・パフォーマーっていうんですけど。それを使うようになったので、音がハイファイに寄っていったって感じですかね。どの年代の音を目標にするにしても、徹底的に合わせようとするんだったら、たぶんごっそりその時使われていた機材にすると思うんですけど。そういうことではなかった。自分の好きな機材を使って、できる限りその(機材の出す)音を知りながら、その機材でのいい音を出すように。」

――では、80年代云々ではなくて、自分の好きな機材がベスト・パフォーマンスをするようなやり方をしていった結果ということなんだね。

「そうそう、できる限り研究しながら。」

――それは面白いですね。いまポップスを演る人って、わりと参照する音があって、こういう音に録りたい、みたいな感じでそのためにはどういう機材が必要か、という起点の考えが多いと思うんですけど。好きな機材起点でやっていくってのはなかなかいないタイプかも。

「やっぱりやってるうちに、「なんか狙った音にならないな」って思うんですよ。ドラムはもっとちんまりさせたいのに、いくらミュートしてもすごく鳴っている音が録れてるな、とか思ったんですけど、それってレコーディング機材もスタジオの鳴りもそうだし、そもそも楽器自体でその時代の楽器を使わないとその時代の音にならないっていう答えにたどり着いたんです、ようやく。で、次は狙った音をちゃんと作ってみようという目標もできました。」

――話変わるけど、フォーマットのこだわりってどうなのかな?ayU tokiOのスタート時はカセットでのリリースがあって、CD出して、それをLPで出したりとか、で7インチを出してって流れがあるんだけど、いろんなフォーマットを試してみる、みたいな感じ?

「カセットに関しては、こだわりがあるというか、大好きなんですけど、CDとレコードに関しては、どうしてもこれじゃなきゃだめだというようなこだわりは特にないです。レコードに関して言えば、たまたまレコードに対する思い入れの強いレーベルの人と知り合う機会に恵まれたという感じで。中にはレコードしか愛せない人もいるんだなって知りました(笑)」

――前回のインタビューでayU tokiOに至るまでのシーンの話をいろいろさせてもらったんですけど、この2年の間でKilliKilli Villaってレーベルが出てきたり、その中で以前から関わりがあったと言ってたSeventeen Againとかが別の感じで注目されたりっていうのがあると思うんだけど、その辺はどう見てた?

「そうですね、2年もすると、色んなところで、若い人達のグループも発生しているし、前は若手だった人が今度は若手を引き上げる立場になったりもするし、色々変わってきているなーとは思いますけど、自分はどこの渦中にも居ないので、みんなが遠くなったなーって思ったりするくらい。色々と思いますけどね。色々な人がいるなーと。」

――アートワークなんですが、イラストなんですけど、前のシングルと同じ人だと思うんですが、こだわりみたいなのはありますか?

「いで(たつひろ)さんという人で、前に彼の展示で、ライブに誘ってもらったことがあるんですよね。そういうのがあって、いつか僕の作品のイラストを描いて欲しいなーって思ってて、今回ピンと来たんで、オファーしてみたんです。」

――犬がすきなんですか?

「犬が好きになったのはわりと最近なんですけど(笑)そうですね、でもだんだんと犬というか、動物に興味が、、、」

――犬にしてもってタイトルもあるじゃないですか。

「動物に興味を持つようになったっていうのはけっこう大きいかもしれない。わりといろいろきっかけがあって。」

――これ、犬なの?シングル(「乙女のたしなみ」7インチ)。

「シングルのは犬じゃないです。たぶんウサギです。わかんないですけど。」

――じゃあ、犬が好きっていうよりは、動物が好き。

「いきものを描いてくださいって言ったんです。」

――そしたらこれが来たと。

「そうです、それとアルバムのこれ、です。」

――じゃあ、これは犬かどうかわかんないんだ!?

「これはユニコーンじゃないですか?わかんないけど」

――ああ、角があるもんね。

「(笑)」

タグ : J-インディーズ ネオ・シティ・ポップ

掲載: 2016年07月06日 14:51