ロバート・マン追悼!世界初CD化を含むジュリアードSQ/エピック録音全集(11枚組)
ロバート・マン (1920-2018) 追悼
2018年1月1日(月)、ジュリアード弦楽四重奏団を1946年に結成し、1997年まで50年以上にわたって同団を率いたヴァイオリニスト、指揮者、作曲家のロバート・マン氏(1920.7.19~2018.1.1)が亡くなりました。97歳での長逝でした。心よりご冥福をお祈りいたします。
マン氏はオレゴン州ポートランド出身。18歳でジュリアード音楽院に入学し、ヴァイオリン、指揮、作曲を学び、1941年12月9日(旧日本軍の真珠湾攻撃の2日後)にソリストとしてデビュー。音楽院卒業後は米軍に召集され、復員後に母校の教授に就任。1946年、ジュリアード音楽院校長のウィリアム・シューマンの提唱により、マン氏を中心としたジュリアード弦楽四重奏団を結成。4つの弦の技術的、音楽的均質性と、感傷を削ぎ落としたドライで直線的な表現により、世界の好楽家に衝撃を与えました。1960年代半ばからは、初期のドライな演奏への反省から、彼らの演奏に豊かなニュアンスとふっくらとした響きが感じられるようになり、スケールの大きな音楽の中には小気味よいリズムが息づくようになりました。こうした演奏スタイルの変遷はモノラル~デジタルに至る、彼らの多くの録音により辿ることができます。
マン氏は1997年にジュリアード弦楽四重奏団を辞すると、演奏活動と同時に取り組んでいた教育活動と、指揮活動に多くの時間を割くようになりました。我が国のサイトウ・キネン・フェスティバルにも2010年に90歳となるまで、毎年のように参加し、教育や指揮に活躍しました。
この「エピック録音全集」は、マン氏の訃報の3週間前に情報解禁されましたが、奇しくも彼の追悼盤となってしまいました。このBOXには彼らが日本を含む世界を演奏旅行して、各地でセンセーショナルな成功を収めた1960年代前半の演奏が多く含まれています。ステレオ初期の鮮烈な録音により、その真価を存分にご堪能いただけるものと思います。
(タワーレコード商品本部 板倉重雄)
ジュリアード弦楽四重奏団/エピック録音全集
世界初CD化を含む、ジュリアード弦楽四重奏団の1960年代の精華をCD11枚に集成。ソニー・クラシカルが誇るリイッシュー・シリーズ、「オリジナル・アルバム・コレクション」に新しくジュリアード弦楽四重奏団のボックスが加わります。1962年から1966年にかけて同団がエピック・レーベルに残した録音をまとめ、さらに1956年にやはりエピックに録音していたアメリカの作曲家ベンジャミン・リースとウィリアム・デニーの弦楽四重奏曲を加えた11枚組です。このうち4枚分が24bit/192kHzリマスター、世界初CD化となります。
1946年にニューヨークのジュリアード音楽院の校長だった作曲家、ウィリアム・シューマンの提唱により、ジュリアード音楽院の教授らによって結成された「ジュリアード弦楽四重奏団」。1950年からコロンビア・レコードにバルトークとシェーンベルクの弦楽四重奏曲全曲など、折しも実用化されたばかりのLPの長時間再生特性を生かした録音を行ない、その鮮烈な演奏でレコード・ファン/室内楽ファンの大きな注目を集め、第2次大戦後の弦楽四重奏団という芸術形態に新たな方向性を示したのでした。
1957年から1962年にかけてのステレオ移行期にはコロンビアと並ぶアメリカの2大メジャーの一つRCAに移籍して短期間ではあったもののベルク「抒情組曲」やドビュッシーとラヴェルなどの印象的な録音を残した後、今度はコロンビア・レコード傘下の別レーベルであったエピック・レコードに移り、モーツァルトの「ハイドン・セット」を皮切りに、ハイドン、ベートーヴェンの「ラズモフスキー・セット」と「ハープ」、シューベルト、メンデルスゾーンなど、腰を落ちつけた体制で本格的な録音活動に乗り出します。
メンバーも創立メンバーのロバート・マン(第1ヴァイオリン)、ラファエル・ヒリヤー(ヴィオラ)のほかは、第2ヴァイオリンがイシドア・コーエン、チェロがクラウス・アダムに代わった第2期で、当初の鮮烈な現代音楽のスペシャリストという枠を超えて、古典派やロマン派の作品を積極的に取り上げ、弦楽四重奏団としての最初の頂点を極めた時期に当たっており、当ボックスにはそうした彼らの特質を刻み込んだ演奏がたっぷり収録されています。(1966年以降はレーベルがエピックから本家コロンビアに再度移りますが、そのまま録音活動は継続され、彼らにとって第1回目のベートーヴェン全集や第2回目のバルトーク全集を完成させます。)
なおCD1に収録されているアメリカの作曲家ベンジャミン・リース(1924-2010)とウィリアム・デニー(1910-1980)の弦楽四重奏曲はモノラル時代の1956年にエピックに録音されていたもので、結成メンバーの第2ヴァイオリニスト、ロバート・コフ在籍時の最後の録音でもありました。
各ディスクは、アメリカ初出盤のオリジナルLPジャケット・デザインを使用した紙ジャケットに収納され、厚紙製クラムシェル・ボックスに収容されます。40ページのオールカラー・ブックレットには、詳細な録音データを含むトラックリスト、アーティスト写真と新規ライナーノーツが掲載される予定です。
BOX Size: L 11 cm x W 13.5 cm x H 13.3 cm
(ソニーミュージック)
世界初CD化!メンデルスゾーンの弦楽四重奏曲第2&3番
当BOXに収録されたメンデルスゾーンの弦楽四重奏曲第2&3番は、これらの作品の演奏頻度が極めて低かった1960年代からのジュリアード弦楽四重奏団の看板作品の一つで、彼らが旧ソ連に演奏旅行をしたときにも取り上げ、絶賛を博しました。1963年録音のこのLPは、アメリカ、イギリス、ドイツで発売されましたが、なぜか日本では一度も発売されたことがなく、CD化も遅れていました。この2曲の美しい旋律とハーモニー、そしてスケルツォ楽章での軽やかなリズムをジュリアードは洗練されたセンスと技巧、そして情熱をもって演じており、筆者は海外盤LPで初めて聴いたとき、たいへん感動したものです。タワーオリジナル企画盤でのCD化も目指していましたが、今回、『エピック録音全集』の形でまとめられたのは慶賀に堪えません。世界初CD化音源は24bit/192kHzリマスターとのことなので、元のステレオ録音の素晴らしさも体感していただけるものと思います!
(タワーレコード商品本部 板倉重雄)
【参考画像】メンデルスゾーンの弦楽四重奏曲第2&3番
英Epicステレオ初出盤のジャケット・デザイン(筆者蔵)
【収録予定曲】
<CD1>
1. ベンジャミン・リース:弦楽四重奏曲第1番
2. ウィリアム・デニー:弦楽四重奏曲第2番
[録音]1956年4&5月、ニューヨーク、コロンビア30丁目スタジオ
<CD2>
モーツァルト:
1. 弦楽四重奏曲第14番ト長調K.387
2. 弦楽四重奏曲第15番ニ短調K.421
[録音]1962年5月、ニューヨーク、コロンビア30丁目スタジオ
<CD3>
モーツァルト:
1. 弦楽四重奏曲第16番変ホ長調K.428
2. 弦楽四重奏曲第17番変ロ長調K.458「狩り」
[録音]1962年5月、ニューヨーク、コロンビア30丁目スタジオ
<CD4>
モーツァルト:
1. 弦楽四重奏曲第18番イ長調K.462
2. 弦楽四重奏曲第19番ハ長調K.465「不協和音」
[録音]1962年5月、ニューヨーク、コロンビア30丁目スタジオ
<CD5>世界初CD化!
シューベルト:弦楽四重奏曲第15番ト長調Op.161
[録音]1962年12月、ニューヨーク、コロンビア30丁目スタジオ
<CD6>
1. ブラームス:ピアノ五重奏曲ヘ短調Op.34
レオン・フライシャー(ピアノ)
[録音]1963年3月、ニューヨーク、コロンビア30丁目スタジオ
<CD7>
メンデルスゾーン:
1. 弦楽四重奏曲第2番イ短調Op.13
2. 弦楽四重奏曲第3番ニ長調Op.44-1
[録音]1963年12月、ニューヨーク、コロンビア30丁目スタジオ
<CD8>
ベートーヴェン:
1. 弦楽四重奏曲第7番ヘ長調「ラズモフスキー1番」Op.59-1
2. 弦楽四重奏曲第8番 ホ短調「ラズモフスキー2番」Op.59-2
[録音]1964年5月、ニューヨーク、コロンビア30丁目スタジオ
<CD9>
ベートーヴェン:
1. 弦楽四重奏曲第9番 ハ長調「ラズモフスキー3番」Op.59-3
2. 弦楽四重奏曲第10番 変ホ長調「ハープ」Op.74
[録音]1964年5月、1965年10月、ニューヨーク、コロンビア30丁目スタジオ
<CD10>
シューベルト:
1. 弦楽四重奏曲第13番イ短調D.804「ロザムンデ」
2. 弦楽四重奏曲第9番ト短調D.173
[録音]1965年10月、ニューヨーク、コロンビア30丁目スタジオ
<CD11>
ハイドン:
1. 弦楽四重奏曲第57番ト長調Op.54-1, Hob. III:57
2. 弦楽四重奏曲第58番ハ長調Op.54-2, Hob. III:58
3. 弦楽四重奏曲第59番ホ長調Op.54-3, Hob. III:59
[録音]1966年4月、ニューヨーク、コロンビア30丁目スタジオ
《演奏》ジュリアード弦楽四重奏団