インタビュー

Alex Gopher With Demon presents WUZ

フレンチ好景気は2002年も終わらない。否、ブーム云々以前に常にそこにいた<フレンチ・タッチ>のオリジネイターのひとり、アレックス・ゴファー先生が、俊英デーモンと合体!! ウズウズしてるアナタも早く体感しちゃって!!


ビリー・ホリデイの“God Bless The Child”をサンプリングした大ヒット曲“The Child”をはじめ、Pファンクのグルーヴを基調に、洗練されたトラックメイクが成功をもたらしたアレック・ゴファーのファースト・アルバム『You My Baby And I』。大仰なフランス料理は苦手だけど、フレンチ・マナーのファンクネスにはしたたかに打たれ、個人的には何度となく繰り返して聴いたあのアルバムから3年を経て、アレックス・ゴファーがウズ名義の新作『Alex Gopher With Demon Presents Wuz』をリリースする。アレックスがインタヴューに答えてくれた。

「この3年間はエンジニアとして、おもにパリのでマスタリングの仕事をしていた。でも、もっと短いスパンで自分のアルバムを出して行きたいから去年の9月で辞めたんだ。この3年間はリミックスもたくさんやったし、TVCMの音楽を作ったりもしていた。そんなわけで、ソロ名義のセカンド・アルバムをなかなか作れなかったんだ。そんな時、イヴ・サンローランに楽曲を提供したことがきっかけになって、僕のこれまでの作品よりもっとクラブ寄りで、ハウス色の強いアルバムをウズ名義で出したいという欲求が強くなったんだ」。

 今年初頭に突然引退を発表し、<モードは終わった>との囁きが聞かれるほどの衝撃を与えたファッション・デザイナー、イヴ・サンローランその人から受けた依頼に応えるべく、アレックス・ゴファーは立ち上がった。そこで大きな原動力となったのが、弱冠20歳でアルバム『Midnight Funk』をリリースし、エティエンヌ・ドゥ・クレシーやベンジャミン・ダイアモンドのリミックスなども手掛けるフランス期待のクリエイター、デーモンだ。

「ソロ名義で作っている作品はファンク、ジャズ、ダウンテンポ、ポップ、ハウスと本当にいろんなジャンルの音楽に影響されている。それに比べて、ウズ名義の作品は、もっとクラブ寄りでハウス色の強い、純粋なエレクトロニック・アルバムにしたかった。そんなわけでデーモンに参加してもらったんだ。彼はヒップホップ出身で、楽器は一切演奏せずに、エレクトロニック・ツールのみで音楽を作るからね」。

 しかし、黒光りするストイックなビートの、エレクトロニックなコーティングが施された表層を剥がすと、うっすらと汗が滲むほどの熱が聴き手の身体を包み込む。鉄は熱いうちに打てというけれど、その熱はCDという直径12センチの銀盤にしかと刻まれている。

「ブラック・ミュージックは僕やデーモンに多大な影響を与えている。でもウズではこういった影響を音楽的には前面に出さず、ファンクやソウルの魂だけを心に持ち続けて作ったよ。僕にとってのソウル・ミュージックは、気持ち的な部分を意味するところが大きい。愛や哀しみといった要素と幸せとが溶け合っている。それに、ソウル・ミュージックは僕らの脳に訴えかけてくるけど、同時に僕らの身体にも訴えかけてくるよね」。

 モードは終わろうとも、フレンチ・タッチが終わることはない。10分を超えるラストの曲“Keep On Dancing(Last Man Standing)”での、大爆発した後に続く余韻がそう告げているように聞こえる。

「これはトランス状態の終わりみたいな感じで、もうこれ以上エネルギーがなくて、感情的混乱の中に取り残されていて……そういう状況を描きながら、もっとも自然な方法でこのアルバムのエンディングを締めくくろうとしたんだ。コンピュータのことは忘れて有機的な生活に戻ろう、ってね」。

 現在、2枚目のソロ作を制作中というアレックス・ゴファー。どうやら、コンピュータのことを忘れることはできないようだが、生楽器をフィーチャーした有機的な作品になりそうな新作も大いに楽しみだ。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2002年04月18日 12:00

更新: 2003年03月07日 19:00

ソース: 『bounce』 230号(2002/3/25)

文/小野田雄

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