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インタビュー

Norah Jones


 ノラ・ジョーンズはジャズの名門レーベル、ブルー・ノートからデビューした新星。シンガーであり、ピアニストである。そして現時点ではまだストックの数は少ないものの、みずから作詞作曲もする。しかしながら、彼女のアルバム『Come Away With Me』は、CDショップの〈ジャズ・ヴォーカル〉のコーナーからはみ出してしまう作品だ。というのも、このアルバムの中には、スライド・ギターやナショナル・ギターが絡む曲があり、また、ハンク・ウィリアムズの“Cold Cold Heart”やニーナ・シモンも吹き込んでいるジョン・D・ラウダーミルクの“Turn Me On”が採り上げられている。すなわちノラの音楽は、ジャジーではあるが、カントリー・フレイヴァーを漂わせていて、さらには南部のブルースやR&Bにも繋がっている。いうなれば『Come Away With Me』は、ライル・ラヴェットの『Pontiac』やKDラングの『Shadowland』などと同じコーナーに置かれてもおかしくない作品だ。

現在23歳のノラは、ニューヨーク生まれで、テキサス育ち。7歳の時からピアノを学び、高校在学中からダラスで音楽活動を開始。ノース・テキサス大学ではジャズ・ピアノを専攻していたが2年で中退し、その後ニューヨークに戻った。そしてまもなく地元のミュージシャンたちと出会って自分のバンドを結成し、昨年1月にブルー・ノートと契約するに至った。このような経歴を持つノラは、最近になってライル・ラヴェット(テキサス出身)のことを知ったとのことだが、「もちろん、カントリーからはいろいろな影響を受けているわ」と語る。

「ただし、カントリーを聴くようになったのは、大人になってから。ジャズは、母親の影響で子供のころから聴いていたけど。それと私は、ジャズと同時に昔のR&B、オーティス・レディングやレイ・チャールズ、アレサ・フランクリンなどを聴いて育ったの」。

前述したように『Come Away With Me』は、ジャズとその他のジャンルの音楽の境界線が交わる部分に位置付けられるヴォーカル・アルバムだ。それもそのはずで、当初プロデュースを任されていた人物は、クレイグ・ストリート。カサンドラ・ウィルソンやジミー・スコットのようなジャズ・アーティストのみならず、KDラングやジョー・ヘンリー、クリス・ウィートリーなども手掛け、各々の新たな魅力を引き出してきた才人である。もっとも、このアルバムの制作は途中から名匠アリフ・マーディンに引き継がれたが、クレイグが手掛けた3曲はルーツ・ミュージック色を帯びており、しかもノラのバンドのメンバーに加えて、ビル・フリゼール(1曲)、ブライアン・ブレイド(2曲)が参加している。さて、ノラ本人は、自分のことをどのように位置付けているのだろう。

「〈自分のことをジャズ・シンガーだと思いますか?〉と尋ねられたら、〈違うわ〉と答えることにしているの。たしかにジャズは自分のルーツだし、歌い方はジャズ・シンガーっぽいかもしれない。それに私はジャズのレコード会社と契約している。でも、私はカントリーやその他の音楽にも影響を受けてきたし、この『Come Away With Me』はあまりジャズっぽくないと思うの。それと私のなかでは、ジャズ・シンガーというと、ビリー・ホリデイやサラ・ヴォーンだったりするけど、ジャズ・シンガーの定義は人によって違うでしょ? だから私自身はあまり気にしてないの」。

適度な洗練を身につけ、温もりともの寂し気な表情をたたえた歌を聞かせるノラ・ジョーンズ。本人の発言を引き受けるなら、ノラは狭義のジャズ・シンガーではなく、現時点における彼女の音楽はそつなくまとまっているぶん、なおさら〈ジャズ〉の匂いは薄い。こんなノラ・ジョーンズが、誰に比較的近いかといえば、アリシア・キーズ。もちろん、音楽的にではなく、存在としてである。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2002年04月25日 12:00

更新: 2003年03月07日 18:27

ソース: 『bounce』 231号(2002/4/25)

文/渡辺 亨

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