インタビュー

bird

これまで構築してきた〈bird世界〉をさらに進化させるべく、初のセルフ・プロデュースで挑んだニュー・アルバム『極上ハイブリッド』。そこには、(タイトルに含まれる言葉どおり)上質で、目映い輝きに満ちたヴァイブが脈打つ!

「〈極上!〉、これや!と」

 <ゴクジョウ>という、硬球を思わせるその言葉が彼女の口から飛び出た 途端、上昇感覚を持ってカキーン!という音とともに空に消えた。


「……〈極〉って、ええ響きやなぁ。去年末あたりからこの言葉がぐるぐる廻ってたんですよ。同じころ、<溶ける>ってイメージにも惹かれてたことがあって、<ハイブリッド>って言葉も浮かんでた。正月あたりかな?その ふたつを合体させて……」

そして『極上ハイブリッド』というイカしたタイトルが生まれた。めでたい話じゃないか。さらにめでたいことには、本作がタイトルに偽りない極め て上質な、黄金色のヴァイブが脈打つ素晴らしい内容となっているのだ。――そのことを再認識させてくれるこのアルバム。

「もっといろんな人とやれたら楽しいやろな」という彼女の予感をもとに、 今回は初のセルフ・トータル・プロデュースという形がとられた。これまで bird的世界観を丹念に構築してきた大沢伸一サウンドと彼女は分割不可能な関 係と思い込んでいた人たちにとって、さわやかな驚きを運ぶことだろう。山崎まさよし、冨田恵一といった名だたる料理人が集い、彼女特有のデザイン力 を引き出すために腕を奮っている。とくに気心知れた仲である田中義人の音作りは、彼女に『極上ハイブリッド』のタイトルを引き出させるきっかけを与え たのでは?と思わせるほどに貢献度大だ。

「今回は、音の隙間を埋めたり、自然に発生したユルイ感じとかを消したりしたくなかったんですよ。そうなると歌詞も言葉をどんどん削ぎ落とす傾向になっていった。いままでは文字をいっぱい詰めて、畳み掛けるように歌うことでおもしろいグルーヴを作ろうとしてたんですけど、それとは方向の違う温度感や空気感を拡げていこうと。当然、歌のアプローチも変わらざるをえなくなって」

それでどうなったか? ファンクはよりしなやかに、またバラードは一層 しとやかさを獲得した。なにより全体に新鮮なきらめきが散りばめられることとなり、一瞬ごとに新しい彼女の表情が浮かび上がってくるような気にさえなる。まるでデビュー・アルバムのよう、とは前作『MINDTRAVEL』を聴いたときにも感じたのだが、彼女は音楽ファンが最上の理想とする、出すアルバムすべてがデビュー作のよう、という偉業をやってのけているのだった。こともなげに。

「とにかく日本語が好きなんやと思うんですよ」と彼女は言う。それにしても今回集められた歌詞のなかの言葉の強さはハンパじゃない。こと細かくは書けないが、その威力については反時代的じゃないか?と考えが過ぎるほどであり。

「〈日本語でやるとダサイやん〉とか聞いたりすると、かっこよくできないはずがない!って思う自分がいて(笑)」と微笑みながら思いもかけないことをやっちゃうのがbird気質と言おうか。

「以前は、詞の世界と距離を置かないとよう歌えへんかったんですよ。振り返ると、イメージしたものをどんどん言葉で飾りたてて、ええ色いっぱい塗 りたくって、ちょっと突き放したところでやっと歌える自分がいた。それが今では、すごく小さなことでも〈ええやん!書いとけよ!〉って感じがすごくあって。そうなってくると気持ち的にも楽になったし」という変化は彼女に明確な 視座を与えることにもなったようだ。

「一瞬のものにすごく惹かれることって多いですよね。歌うことにしても 詞のなかの情感にしても情景にしても、パンッとある一瞬を切り取って、すく い取ろうとしてる。だからすごく写真に惹かれるんですよ。あの断片にはいろんな想像が浮かぶし、歌詞のイメージの拡がり方と似ているものがある気がする」

自己確認をしていく過程で捉えた『極上ハイブリッド』な世界。さまざ まなものを混ぜ合わせていくことによって、何色とも識別し難い不思議な色彩が浮かび上がった。今は、ただぼんやりとその不可思議な世界に見とれていることしかできず、心地良い失語状態に包まれている。

birdがこれまで発表したアルバムを紹介。左から、99年のファースト・アルバム『bird』、2000年のセカンド・アルバム『MINDTRAVEL』(共にソニー)

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掲載: 2002年05月09日 21:00

更新: 2003年03月07日 16:30

ソース: 『bounce』 229号(2002/2/25)

文/桑原シロー