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インタビュー

X-Press 2

UKを疾駆した超特急が終着駅に辿り着いて5年。多彩な活動を繰り広げる3人が集まったのは、新たな始発点だった……。より強靱になったグルーヴと変わらぬイズムを搭載して、エクスプレス2がふたたび走り出したぞ!

ダンスものがチャートの上位をさらうことはいまや珍しくないUKといえども、トーキング・ヘッズのデヴィッド・バーンが歌うメロウで格式高いダンス・サウンドが、ここまで上位に食い込むなんてそうはないことだろう。4月にリリースされた“Lazy”が、全英シングル・チャート初登場2位を記録したロンドンの伝説のハウス・チーム、エクスプレス2。彼らは忘れ去られてはいなかった。皆、あの興奮を忘れられずにいたのだ。

「アルバム制作中、エンジニアに〈トーキング・ヘッズみたいな曲だね〉って指摘されてね。じゃあデヴィッドに参加してもらおうじゃないか、ということになった。コンタクトをとったらOKが出て、とっても光栄に思っているよ」(ディーゼル)。

 しかし、“Lazy”も成り行きで完成した曲なのか。92年に名曲“Muzik X-Press”でデビューしてから10年、活動を休止してからは約5年。致命的なブランクにもかかわらず、本物のロンドン・サウンドを体感させてくれる数少ないグループとして見事な復活を果たした彼らだが、その機会は偶然に訪れたものだった。デビューがそうだったように、“Lazy”がそうであるように。彼らはいつでも第三者の思いつきを確実にものにしてきた。

「エクスプレス2の歴史にテリー・ファーレイ(ジュニア・ボーイズ・オウン)は欠かせない存在なんだよ。そもそも、結成も彼のアイデアがきっかけだったし、今回の場合も彼がアシュレイ(・ビードル)のスタジオでサンプルを見つけて〈エクスプレス2でやらないか?〉って言い出したんだから」(ロッキー)。

 そうして、そのサンプルがブレイク部分で突然スパークするトラック“AC/DC”が完成する。すぐさま彼らは熱烈なラヴコールに押されるかたちでスキントと契約し、“Muzikizum”“Smoke Machine”“Lazy”とシングルを連続リリース。彼らは本気だった。そして今回の『Muzikizum』は、まるでパンクに続くUKミュージック・シーンの大革命と言われた〈セカンド・サマー・オブ・ラヴ〉の旅の終着地点であるかのような内容だ。

「僕らにとってレコード作りとは楽しい作業なんだ。その気持ちが僕らの音楽には現れていると思う。分析したり真剣に聴き込んだりするような音楽じゃないんだよ。音楽に対する姿勢は真剣だけどね。僕らはハウス・ミュージックが好きで、そこにある全てのテクスチャーが好きで、僕らの音楽的影響は幅が広い。タイトルにある〈Izm〉という言葉に意味があるとしたら〈僕らは現在こういうふうにハウスを捉えている〉っていう意味だろうな。僕らが過去14年間DJをして、クラブに通って集めた経験と知識がここに集約されている」(ディーゼル)。

「評論家やクラバーがどう解釈するかは自由さ。躍起になったりしない、それが僕らのスタンス。〈むかしむかしあるところにジャックがいました。ジャックにはひとつのグルーヴがありました……〉(Mr.フィンガーズの名曲“Can You Feel It”の一節)、それくらいにしか考えてないんだ(笑)。僕らのメンタリティーはオールド・スクールだよ。でも、作る音楽は未来の音楽だ」(アシュレイ・ビードル)。

 彼らが10数年続けてきたDJやクラブ通いで得た経験や知識を集約したハウス・ミュージック。ダンス・アルバムでこれに勝るテーマやコンセプトはないだろう。逆に〈真剣に聴き込んだりするような音楽じゃない〉など、なかなか出てこない発言だ。伝統的なサウンドを受け継ぎつつも、いまこの場で踊るための音楽をやろうとするエクスプレス2。そしてその音が未来を導くという自信。彼らが思うハウス・ミュージックの本質とは何なのだろうか。

「僕に言わせてもらえば、ディスコの逆襲なんだよ。アルバムを作ったとき、意識して特定のテンポを保った。128~130BPMだね。このテンポよりちょっとでも速くなると、人は身体のグルーヴを失うんだ。無意識的に身体に作用する。それが僕にとっての究極のハウス・ミュージックだ」(アシュレイ)。

 きっと本作は、例えばサントラ『24 Hour Party People』の収録曲で幕を開け、プライマル・スクリーム、ケミカル・ブラザーズ、アンダーワールド、ファットボーイ・スリム……と続いてきたUKのダンス・ミュージック史に欠けていたものを補ってくれ、あなたのコレクションをコンプリートにしてくれるものに違いない。でも彼らの伝説は始まったばかりだ。

「僕らはハウスを信じているんだ。それに音楽としてまだとっても若い。ロックンロールは1948年生まれだし、ヒップホップは20歳だし、それに比べたらハウスは若い。まだ先は長いね」(アシュレイ)。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2002年06月20日 13:00

更新: 2003年02月13日 12:36

ソース: 『bounce』 232号(2002/5/25)

文/谷上史憲