〈歌う〉ことによっても磨かれていくインストゥルメンタル・バンド=東京スカパラダイスオーケストラ
東京スカパラダイスオーケストラ=インストゥルメンタル・バンドという認識は間違いではない。が、彼らの十数年におよぶ活動のなかで、〈ヴォーカル〉あるいは〈歌〉のクロニクルは、結成時にまで遡ることができる。
87年ごろの初期スカパラには、すでにギムラこと故・杉村英詩がヴォーカルとして参加している。といっても、ギムラはヴォーカリストとは名乗らず、あえて〈匂い〉とか〈エナジー〉という役割を自己申告していた。彼らはスカを愛好する男たちではあったが、その特異な音楽センスは、たとえばギムラが初ヴォーカルを披露した“ジャングルブギー”(笠置シヅ子)のカヴァーにも表れている。最近でこそ〈昭和歌謡〉などと呼ばれ、温故知新ブームになっているようだが、服部良一作品をモダンでエネルギッシュなアプローチでいち早く取り上げるなど、スカパラの昭和再発見は斬新だった。89年にレコード・デビューしてからは〈東京スカ〉を旗頭に、雑食性の高い音楽性と圧倒的なライヴ・パフォーマンスで一躍人気バンドへと躍進。インスト・ナンバーも含め、スカパラはカヴァーのセンスも抜群だった。ヴォーカル・チューンではスリー・ディグリーズが70年代に日本語で歌った“にがい涙”など、のちに和モノのレア・グルーヴとして定番になるような曲を採用。そういった臭覚は、ミュージシャンでありながらクラブ育ちという出自と大いに関係があるし、メンバーのなかにDJとして活動する者も多いという理由が挙げられるだろう。ギムラの病気療養中にレコーディングされた『GRAND PRIX』は、スリラーUから高橋幸宏まで多彩なゲストを迎えて制作された。この時期、スカパラのメンバーは、小沢健二をはじめさまざまなアーティストとのコラボレーションをこなしており、ヴォーカル・チューンのアレンジ能力を一段とアップさせる力を身につけた。ギムラの実弟、杉村ルイをヴォーカルに迎えた『ARKESTRA』は、ルイの少年のように無垢な歌声が印象に残った。そして、当代随一のイケメン・ヴォーカリストを迎えて、久しぶりのヴォーカル・チューン“めくれたオレンジ”(田島貴男)、“カナリヤ鳴く空”(チバユウスケ)、“美しく燃える森”(奥田民生)を連続リリース。こんなメンツとの共演を可能にしたのは、スカパラが歌心をよ~く理解しているバンド、ということにほかならない。
東京スカパラダイスオーケストラのヴォーカル・チューンが堪能できる代表的アルバムを紹介。左から、スリー・ディグリーズ“にがい涙”のカヴァーなどを収録した90年作『スカパラ登場!』、小沢健二、石川さゆりほか豪華ゲスト・ヴォーカルをフィーチャーした95年作『GRAND PRIX』(共にエピック)、ヴォーカルに杉村ルイを迎えた98年作『ARKESTRA』(avex trax)
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