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インタビュー

Will Smith

ふたたびサングラスをかけて大暴れしつつ、力作『Born To Reign』を完成させたウィル・スミスを、ラッパーと俳優の両面から徹底解剖よ!!

 漫談ラップ。かつてウィル・スミスがフレッシュ・プリンスというステージ・ネームを名乗り、生まれ故郷フィラデルフィア時代からの幼友達であるDJジャジー・ジェフとコンビ(DJジャジー・ジェフ&ザ・フレッシュ・プリンス:以下JJ+FP)を組んで人気を博していた頃、彼のラップをそう評したことがある。言ってみれば、あのエディ・マーフィーやクリス・タッカーも通り過ぎてきたスタンダップ・コメディー(マイク片手にたった独りでおもしろおかしいことをくっちゃべるという芸)にも相通ずるような。〈カァちゃんが買ってきた服がダサくて学校へなんか着ていかれないよォ~〉とラップする、JJ+FP初の大ヒット曲“Parents Just Don't Understand”(87年/全米シングル・チャート12位)は、まさにティーネイジャーの切なる心情を代弁するものだった。コミカルなラップで人気を博したJJ+FPは、しばしば他のラッパーたちから〈セル・アウト(=露骨なウケ狙い)〉と陰口を叩かれることもあったが、まだアンダーグラウンド・ミュージックの域を出ていなかったラップの大衆化に彼らが大きく貢献したことは、紛れもない事実である。

生来の〈人を喜ばせることに命を賭けちゃう〉的なエンターテイナー気質のフレッシュ・プリンスは、やがてTV界でも引っ張りだことなる。さまざまな音楽祭の司会を務め、ついには、俗にシットコム(Situation Comedy)と呼ばれるTVのコメディー・ドラマ「The Fresh Prince Of Bel Air」で主役の座を射止めるのだった。このドラマがヒットし、彼は一気にお茶の間の人気者となる。さらには、チョイ役で映画にも出演するようになり、ラッパーのフレッシュ・プリンスではなく、俳優ウィル・スミスとして広く認知されるようになった。そうこうするうちに、彼はジャジー・ジェフとコンビを解消、本名を名乗ってソロ・ラッパーに転向する。俳優としてもハリウッド映画で主役を張るほど波に乗ってきたウィルは、スクリーンで大暴れ。なのに、彼は現在もコンスタントにアルバムを発表し続けている。そんなウィルに、誰もが訊いてみたい質問――現在の彼は、ラッパーと俳優のどちらにウェイトを置いているのだろうか?

「どっちも! ひとことで言えば、〈back-and-forth(行ったり来たり)〉さ。どちらか一方に偏るんじゃなくて、ラッパーと俳優の間を常に行ったり来たりしたいと思ってるんだ。アルバムを制作する時は、出来上がった曲をかき集めただけのものにしたくないから、両立させるのは確かに難しいけどね。でも、僕の場合は、出演した映画のための曲をレコーディングすることもあるから、映画とまったく関わりのないところで音楽をやってるわけじゃないんだ。いまは自宅にスタジオを持ってるんで、時間さえあればスタジオにこもってレコーディングの作業をしてるよ」。

やはり、俳優ウィル・スミスには、フレッシュ・プリンスとしてスタートした頃のラッパー魂がいまもしっかり宿っているのだ、と再確認した。だからこそ、「アリ」「メン・イン・ブラック2」と、立て続けに大作に主演した直後にもかかわらず、新作『Born To Reign』を引っ提げてヒップホップ・シーンに戻ってきてくれたのである。しかも、ウィル言うところの「曲のかき集め」なんかじゃなく、中身の濃いアルバムを完成させて。

「今回のアルバムでは、いろんな試みに挑戦してみたんだ。例えば、新曲“Black Suits Comin'(Nod Ya Head)”では、トラ・ノックスという、まだ正式にデビューしてないNY出身の3人組ヴォーカル・グループをフィーチャーしてるし――彼らはアルバム収録曲のほとんどの曲で歌ってるんだけど――バック・トラックは全てナマのオーケストラなんだ。もちろん、サウンド的にラップ・ミュージックっぽくなるように、手を加えてはいるんだけどね」。

ラッパーとしてすでに確固たる地位を確立しているというのに、ウィルの飽くなきチャレンジ精神には、本当に頭が下がる思い。しかしながら、〈世界を支配するために生まれてきた〉という意味のアルバム・タイトルには、ベテラン・ラッパーとしての並々ならぬ自信も垣間見える。

「アルバム・タイトル曲の冒頭でも説明してるけど、今回のタイトルには、〈運命とは、人間が最初から生まれ持っているものではなく、自分の手で選ぶものだ〉という意味が込められているんだ。言い換えるなら、〈人生の選択〉かな。僕の人生は、僕自身が生き方を選ぶんだ、という決意の表れなのさ」。

決して奢り高ぶることなく、かといって殊更にへりくだることもなく。ウィル・スミスは、彼自身の言葉どおり、自分の意思で運命を選択し、自分の力でそれを切り拓いてきた。彼には〈天が二物を与えた〉という表現はふさわしくない。ウィルは、みずからその二物――ラップと演技――の才能を磨いて昇華させたのだ。   

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2002年07月11日 15:00

更新: 2003年02月12日 14:06

ソース: 『bounce』 233号(2002/6/25)

文/泉山真奈美