インタビュー

俳優ウィル・スミスのフィルモグラフィー、そしてその魅力とは?

 現在日本で公開中の「アリ」における〈熱演〉により、アカデミー主演男優賞候補となったウィル・スミス。今回のアカデミー賞は、アフロ・アメリカン俳優に甘かったという見方は別にしても、彼のことをお子ちゃま向けブロックバスター・ムーヴィー用のハリウッド・スターくらいにしか思っていなかった映画ファンには、このノミネートはちょっとした驚きだっただろう。だが、この作品の前年の主演作「バガー・ヴァンスの伝説」を観ていれば、その驚きの意味も違っていたはずだ。ウィル・スミスは、私生活ではゴルフ狂らしいが、ここでは再起にかけるゴルファー、ジュナ(マット・デイモン)の前に、夜の闇の中から忽然と姿を現し、自分をキャディとして雇うよう諭し、ゴルフとダブらせて人生訓を説きながら、まるで賢者/導師/守護天使であるかのように、ジュナを勝者として再生させて消えてゆくバガー・ヴァンスに扮していた。ロバート・レッドフォード監督によるこの作品では、各登場人物、撮影、音楽などさまざまな要素が、優美すぎるくらい優美なのだが、その役回りと演技からいっても、ウィル・スミスが映画全体を支えていたことは見逃せない。「バッドボーイズ」(95年)、「インデペンデンス・デイ」(96年)、「メン・イン・ブラック」(96年)、「エネミー・オブ・アメリカ」(98年)、「ワイルド・ワイルド・ウエスト」(99年)の順で観てきた観客なら、「アリ」以前に驚いてもよかったのだ。

 では、「バガー・ヴァンスの伝説」で見せた優美さがどこからきたのか、といえば、それはやはり93年の主演作「私に近い6人の他人」からだろう。同名の舞台を映画化したこの作品で、彼はNYのアッパー・イーストサイドに住む上流家庭、キトリッジ一家の生活へ(バガー・ヴァンスよりも唐突に!)闖入する青年ポール(アフロ・アメリカンの名優シドニー・ポワチエの息子であると自己紹介する)に扮した。彼の品のある物腰や知性と確かな教養を感じさせる語り口に、たちまち一家も心を開くが、その正体(秘密)が次第にあきらかとなってゆく過程で、この一家そのものの姿も内側からむき出しにされてしまう。当時はジャジー・ジェフ&フレッシュ・プリンスのアルバム『Code Red』も出たばかりで、現在よりもずっとラッパーとしての認知度が高かった彼が、この映画でポールというゲイの青年役を演じることそのものが、当時のヒップホップ界の〈常識〉からすれば、衝撃的な行為だったわけだが(同性との露骨なキス・シーンは頑なに拒んだという)、早くもこの段階で、それだけ映画俳優としてのキャリアを真剣に考えるようになっていたのだろう。すでに前年には「ハートブレイク・タウン」「メイド・イン・ブラック」に出演していたとはいえ、あくまでも90年から始まっていた(96年まで続いた)TV番組「The Fresh Prince Of Bel Air」のおニイちゃんにすぎなかった彼が、この作品によって口うるさい映画評論家に初めて認知されたのだから、その後のキャリアを考えれば、彼の判断は間違っていなかったことになるし、重要作であるというわけだ。

『メン・イン・ブラック2』
2002年/アメリカ 監督/バリー・ソネンフェルド 出演/トミー・リー・ジョーンズ、ウィル・スミス、ララ・フリン・ボイル、ジョニー・ノックスヴィル他 7月6日より東京・丸の内ルーブル他、全国松竹・東急系にて公開予定(配給/ソニー・ピクチャーズ)

『アリ』
2001年/アメリカ 監督/マイケル・マン 出演/ウィル・スミス、ジェイミー・フォックス、ジョン・ボイド、マリオ・ヴァン・ピーブルス、ジェイダ・ピンケット・スミス、ノーナ・ゲイ他 全国松竹・東急系にて公開中(配給/松竹)

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掲載: 2002年07月11日 15:00

更新: 2003年02月12日 14:06

ソース: 『bounce』 233号(2002/6/25)

文/小林雅明