インタビュー

choro azul

お互いの信頼で結ばれた小さな楽隊が、さっそうと羽ばたき始める。デビュー・アルバム『choro azul』が登場!


 リトル・クリーチャーズがプロデュースしたオムニバス『sign off from amadeus』に収められていた林夕紀子によるニーナ・シモンのカヴァー曲“Be My Husband”。まるでミシシッピー・デルタのゴスペルのごとく、手拍子足拍子だけで歌われるその魂に打ちのめされたのが96年。それから機はめぐり熟して、ようやくお目見えとなった。

「あの頃はお互いが別々にやってたんですよ。僕がジャズ・ファンクみたいなのをあちこちでやってて、それを林が観てたりしてた。本当は歌物のバンドを少人数でやりたかったので、周りに話してたら彼女を紹介されて。じゃあ、やってみようと。でも、その時は2、3回ライヴをやったぐらいで、それっきり6年ぐらいやっていなかったんですけどね」(家入哲也、パーカション)。

 choro azul=蒼い鳴き声。小さな楽隊という意味で名付けられたトリオである。あとひとりはギターの大澤直樹。

「ごまかしが効かないってところはありますね。音にしても見た目にしても、3人というのがいちばんいい緊張感を持ってできるかなと」(家入)。

「個人個人が精一杯やらないと成り立たないので、そこがおもしろいです。でも、ここから広げていくこともやってみたい。いまはいちばんベーシックな部分をやってる段階でしょうか」(林)。
 とにかく圧巻なのは、林の生命力溢れるヴォーカル。その深味と存在感を浮き彫りにするための演出として、トリオはもはや阿吽の息にある。それが成した堂々たる風格。スタートでこのレベルだったら、彼女がはにかみながらこぼした「目標はカサンドラ・ウィルソンになることです(笑)」も、あながち遠くはないのかも知れない。それに、いずれ追い越す日も来るのかもしれない。折りに触れて真に迫っていくのだろう。

「英語やポルトガル語を使ったのは、単純にその響きが好きだから」(林)という詞の世界もまた独特。率直で博愛的なテーマと相まって、歌の普遍性をさらに増幅させている。そして「ひとつのジャンルだけで捉えてほしくないというのはあります」(家入)というレパートリーは、オリジナルに加えてカルトーラとジミ・ヘンドリクスと財津和夫が向き合うヴァリエーションにある。

『choro azul』でカヴァーされているオリジナル楽曲を収録したアルバムを紹介。左から、“O Mundo E Um Moinho”“Minha”を収めたカルトーラの『Discos Marcus Pereira』(EMI)、“Little Wing”を収めたジミ・ヘンドリクス・エクスペリエンスの『Axis:Bold As Love』(MCA)

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掲載: 2002年07月18日 18:00

更新: 2003年02月10日 15:26

ソース: 『bounce』 233号(2002/6/25)

文/萌木 里