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インタビュー

白石隆之

ニュー・アルバム『SLOW SHOUTIN'』が伝える、音楽が生まれる瞬間の切実さ


 必ずしもドラマティックではないし、派手な仕掛けが用意されているわけでもない。だけれども、徐々に立ち上がってくるグルーヴがじわじわと私たちの身体のなかに浸透していくこの感じ……それは音のなかに素直に流れ込んだ、濃密な感情に誘われる旅路のようでもある。

「今回はだいたい制作順に曲を並べた。……ここ数年はいろんなジャンルがクロスして、いろんな意味で混沌としてた。だけど、それが本来の形だからそれ自体には意味はない。ゼロの地点。そこからそれぞれが自分の表現として何を作るか。意識的なアーティストだったら、そうしなきゃっていう気持ちを持ってるんじゃないかな。そういう意味でも個に帰るというか、突き詰める作業だった」。

 全体的にBPMが遅めの4つ打ちによって構成されたこの作品が呼び起こす「薄暗がりのなかをゆっくりと歩いて行くような感覚」は、確かにセオ・パリッシュやムーディマンの持つ独特の催眠的グルーヴを思い起こさせる。と同時に、奥深い闇のなかに一点の光を見い出そうとしたTHA BLUE HERBやNUMBの最新アルバムとも奇妙に同期している。

「ものすごい高いレべルでの夢心地はあるとは思う。だけど、現実は相当ひどいことになってる」。

 その闇にようやく目が慣れてきた頃、日本語で語られるセリフが私たちをハッと現実に引き戻す。

「日本語を使うことは、ある意味ものすごい冒険。ダサいといえばダサいんだよね。……テクノやハウスは、ずっと言葉から遠ざかっていた。それはそれで興味深いんだけど、なにか物足りないっていう意識があった。単なるムードで終わってしまうというか。THA BLUE HERBやSHING02から言葉の力強さを感じた。言葉はリアルだから」。

 そもそも、その音楽的ルーツをパンクやニューウェイヴに持ち、70年代のジャーマン・ロックや80年代のポスト・パンクに影響を受けた彼が、90年代になってダンス・ミュージックへとシフトしていった理由のひとつはデトロイト・テクノの持つ「音楽が生まれてくるときの切実さ」だった。それがあってはじめて、10数年前に中古屋でたまたま買った古いリズム・ボックスを引っ張り出してきて作った“PASSING”や彼流のブルース“NOWHERE”といった曲が生まれてきたのだろう。そしておそらく、ここにこそ、ある種のエレクトロニカのような〈インテリア・ミュージック〉の域に彼の音楽が収まらない理由がある。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2002年07月18日 18:00

更新: 2003年02月10日 20:50

ソース: 『bounce』 233号(2002/6/25)

文/加藤由紀