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インタビュー

押尾コータロー

アコースティック・ギターひとつで鮮やかなメロディーを作り出すニューカマーが登場!!


〈新しいサウンド〉は往々にして、その時代ごとの文化的/社会的背景やテクノロジーといったパラメーターに左右されながら生み出されてくるもの。そして稀に、昔ながらのアコースティック・ギターからこの上なく新鮮な音楽が作り出されることがある。それはアール・クルーだったり、タック・アンドレスだったり、あるいはトマティートだったりするのかも知れない。

 今回アルバム『STARTING POINT』でメジャー・デビューした押尾コータローもまた、たった一本のアコースティック・ギターで新しい世界観を切り拓いたアーティストだ。たった6本のスティール弦が張られただけのアコースティック・ギターなのに、彼がメロディーを爪弾き、そして共鳴させるだけで、得もいわれぬ爽やかな世界が目の前に立ち現れてくる。それはフォーキーで、ファンキーで、クラシカルで、ときにアンビエント的であったりもする。

「高校生のころはブルースやラグタイム系のギターにハマってたんですよ。それが18歳のころ、マイケル・ヘッジスのような、ちょっと現代音楽が入ってるようなギターに出会って世界が広がったんです。さらに20代にロック・バンドを始めてからは、ベースも弾きながらプライマスやキング・クリムゾンとか、マニアックな方向にも惹かれていってしまって(笑)」。

 多様なルーツを持つ押尾のギターを聴くたびに感じるのは、まるで一個のバンドがまるごと圧縮されているかのような濃密さだ。

「組んでいたロック・バンドのメンバーが抜けていくうちにヴォーカルとギターだけになった。そのときに、それまでバンドでやっていたことをギター一本で表現してみようと思った。ギターは6和音あるけど、1音しか出ないサックスとかの楽器と比べて説得力の点で負けると思った。だから、単音で弾いたメロディーに余った指で和音を付け加えたり、ヴィブラートをかけたりしていったんです」。

 アルバムには瑞々しい押尾のオリジナル以外に、映画「戦場のメリークリスマス」や「第三の男」のテーマ曲のカヴァーが収録され、彼が音楽監修を手掛けた来年公開予定の映画「船を降りたら彼女の島」のテーマ曲も収められている。彼の作り出す音は聴き手の頭の中に、さまざまな映像を呼び覚ましてくれるものだ。

「でも、大都会や大自然のイメージを決めて作っていっても、出来上がるころには(曲の持つイメージは)真っ白なものになってるんですよ」。

 まだ若々しい彼は、ギタリストとしてだけではなく、作曲家/編曲家としても日本の音楽シーンを変える存在になっていくような予感がしてならない。

文中に登場したアーティストの作品を紹介。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2002年07月25日 22:00

更新: 2003年02月13日 12:15

ソース: 『bounce』 234号(2002/7/25)

文/今村 健一