インタビュー

夏川りみ


 〈昭和歌謡曲的〉ともいうべき幸福な連環を感じるんだよな。ある日、くっきりとした顔を持った“涙そうそう”という曲と夏川りみという歌手が現れ、そしてゆっくりと世間に浸透しながら聴き手を巻き込み成長していくという、〈やがて〉の物語の進み方を見ていると、ノスタルジックな理由からでなく、どうしようもなく〈昭和歌謡曲的だ〉と呟かずにはおれない。

「沖縄サミットのとき、(同じ石垣島の出身である)BEGINが“涙そうそう”を歌ってるところがTVで中継されてて。がんばってるなぁと思って観てたんだけど、それからこのメロディーが頭の中をぐるぐる廻って離れなくなった。その後、彼らのライヴに行った時に楽屋で、〈あれちょうだい〉っていきなり頼んでさ(笑)。そしたら、改めて曲作るよっていうことで“あなたの風”(シングル“涙そうそう”に収録)をもらったんだけど、〈これもいいけど、やっぱりあれを……〉って言ったら(笑)、〈じゃあ歌えばいいさ!!〉って言ってくれて(笑)」。

 ということで無事(?)、彼女の元へと手繰り寄せることができたこの名曲。彼女も最初はリスナーとして出会ったことが影響して、この曲を歌うことに対しての覚悟や度胸が生まれたのだろう。幼いころからうたを歌い続けてきた彼女、「中森明菜とか好きだったけど、“兄弟船”歌え!って言われるような環境に育った(笑)」というからポップスは少し遠い存在という意識があったという。

「平成元年に一度デビューしたけど、今思うと意味もわからないままに曲を歌ってたんだな、って気がする。で、がんばろうって気が起こらなくて一回沖縄に帰った」。

 後に機会あって99年、夏川りみとして再スタート。そして昨年“涙そうそう”をリリース。「これだ!と思えたのはこの曲が初めてだった」と彼女は話す。

 今回届いたファースト・アルバム『てぃだ~太陽・風ぬ想い~』には、前のミニ・アルバム『南風』でも挑戦した沖縄の島唄を多数フィーチャ-。

「島唄や民謡はいつも近くにあったけど、私がこういう形で歌うとは思ってなくて。また、沖縄を意識して出そうとも思わなかった。でも最近、地元から呼ばれて頻繁に行くようになって、なんてきれいなところなんだろう!って再認識した。〈もっと自慢していいんじゃないか〉って改めて考えたわけ。島の人間が島のうたを歌えるって喜びも感じられるようになったし。あと、〈別に喋りが訛っててもいいサ~〉って思えるようになって(笑)」。

 他の収録曲を見ると、以前にも増して陽光性の強い彼女のうたが発見できる。曲調もヴァラエティー豊かで、AORサウンドからコ-ラスが楽しいKiroro“月の夜”のカヴァーまで色とりどり。特に良き理解者である吉川忠英の作曲/編曲による、チャンキー味が炸裂する“心のかたち”はりみちゃんの〈もぎたて度〉をアップさせる名曲。

「今回は、忠英さんとも手拍子とか指笛とかどんどん入れようよ!って決めて。彼に〈三線弾いてよ〉って言われて、〈無理です!〉って言ったんだけど、一応練習してさ。で、レコーディングの時、忠英さんに〈りみ がここまで弾くから、後は忠英さん、ギターよろしくね〉って言ったらさ、周りが〈おいおい……〉って、びっくりしちゃって(笑)。私、あんなにすごい人だって知らなかったから。でも、〈そんなりみちゃんが好きだ〉って、忠英さん言ってくれる(笑)」。

 バックアップする面々の遊び心を刺激する彼女のキャラクターと声。そして彼女を包む暖かな眼差し。

「“赤花ひとつ”っていうBEGINのマサル(島袋優)が作ってくれた曲に、彼が〈ニ行だけど、りみ自身の言葉を入れてくれ〉って。っていうか……勝手に入れられたんだけど(笑)」。

 歌詞カードを眺め、それってここ?と僕はすぐさま指差した。 

〈私の言葉があなたに届くように/そして少しでも力になりますように〉

「そう! これって“涙そうそう”を歌い出してたくさんの人からもらった反応から自分が感じた気持ちを表わした言葉なわけ」。

 うん。このニ行から溢れ出る気概は、このアルバムから浮かんでくる「私、歌わせてもらいますっ!」っていうりみちゃんの凛とした立ち姿と重なりあって爽やかな曲線を描き出す。昔ながらの生乳仕立て――そんなフレーズが合う美味しいファースト・アルバムの完成!

PROFILE

72年、沖縄県・石垣島生まれ。3歳のころから歌を歌い始め、小学生のころから地元の〈のど自慢大会〉で数々の賞を受賞する。また、12歳のときには〈長崎歌謡祭〉に沖縄県代表として出場しグランプリを獲得。上京後、数枚のシングルをリリースする。99年、〈夏川りみ〉と名前を変え、シングル“夕映えにゆれて”をリリース。2001年には同じく石垣島の出身であるBEGINが作曲を手掛けた“涙そうそう”を発表。地元・沖縄からじわじわと火が付いていったこの曲は全国的なヒットを記録する。今年に入るとミニ・アルバム『南風』をリリース。そんななか、待望のファースト・フル・アルバム『てぃだ ~太陽・風ぬ想い~』(ビクター)がリリースされたばかり。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2002年10月03日 16:00

更新: 2003年02月13日 10:57

ソース: 『bounce』 236号(2002/9/25)

文/桑原 シロー