インタビュー

シガー・ロスとレイキャビークを行く

 シガー・ロスが拠点を置くレイキャヴィークはアイスランドの首都。フレッシュな空気がたまらなく魅力的な美しい近代都市だ。そんな街のダウンタウンは一回りするのに2時間もあればおつりがくるくらいの広さ。車で10分も走れば、剥き出しの岩肌が荒々しい山や、丘の下でまどろむ馬や羊といった豊かな自然に出会える。ほとんどの建物はトタン製。カラフルなペンキで彩られて、まるでおもちゃの家のような可愛らしさだ。さて、その小さなダウンタウンの核となっているのがローガンベガー通り。1kmもない一方通行の小さな通りで、シガー・ロスとこの通りを歩けば、少し進むごとに誰かが彼らに声を掛けてくる。それにも増して、アイスランド・ウールのセーターなんかがずらっと並ぶお土産物屋で必ずビョークと彼らの作品が試聴機に入って売られている様子を見かけると、〈国民的バンドなんだなぁ〉とリアルに感じたりも。レコード・ショップもいくつかあり、そのなかでもシガー・ロスやムームがお気に入りなのが〈12トナー〉。国内外問わず、あらゆるシーンを興味深いラインナップで揃えていて、音楽ファンにはたまらなく魅力的なショップだ。1階と地下の2フロアは決して広くないけれど、試聴スペースにおかれたソファーでゆったり探し物もできるし、店員さんと最新のアイテムなんかのおしゃべりを楽しんだりもできる。その日はちょうど、ムームがワールド・ツアーの最終日ということで、地元に久々に戻ってきたお祝いか(?)、1時間ほどのショウが行われていた。床に機材を広げて普段のセットとはまた違った超エクスペリメンタルなサウンドをプレイするムーム。そんななか、来店したお客さんにお店から赤ワインが配られたりして、とても美しいローカル・シーンだった。ほとんどのショップが午後6時を迎えると静かに店じまいになる頃も、北欧の空はまだ明るい。そんなわけで長い夜を楽しむために地元でクールな若者が集うカフェ&バーが〈キャフェバイン〉。ここは毎晩DJが入り、常に賑やかな場所。普段は静けさが漂うレイキャビークだが週末金曜と土曜の夜だけは例外で、とくに深夜を迎えると若者たちで溢れ返り、あちこちのクラブやバーで長い行列ができる。グラスの割れる音なんてそこら中から。〈日常勤勉で寡黙なアイスランド人が最高に粗野に豹変する瞬間〉と、この現象にシガー・ロスは溜息を漏らしていたけれど、ローガンベガー通りを歩く彼らがこの晩(金曜日)どこへ消えていったかはご想像どおりです。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2002年11月21日 15:00

更新: 2003年02月07日 15:30

ソース: 『bounce』 237号(2002/10/25)

文/浜野 順子

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