インタビュー

ASLN

最小限のアンサンブルによって生まれるグルーヴ──益子樹率いるバンド、ASLN!!


 2002年前半でも突出した作品のひとつである、SUPERCARの『HIGHVISION』。その漂うグルーミーな空気に大きな貢献を果たしたのが、ほかならぬプロデューサーの益子樹(ROVO/DUB SQUAD)。彼が実生活のパートナーでもある益子ふみえをヴォーカリストに迎えた4人組ASLNのファースト・フル・アルバム『ASLN』には、同じく穏やかで心地良い高揚感がある。しかしいわゆる〈ロック・シーンにおけるクラブ・ミュージックを通過した音響〉の立役者であるという意見について、彼らはやんわりと否定する。

「ライヴとレコーディングは別のものだと思うし、僕らが特別にテクノ的な作り方を意識したというよりも、時代の流れがあると思うんです」(益子樹)。

 ASLNもまたバンドでありながら、アンサンブルは限りなく最小限の要素のみで構成されている。それは「とりあえず入れてみてから引くっていうよりかは、入れる前に考えて、本当に必要な音を演奏する時点で選ぶんです」(中西宏司、ベース)という制作プロセスからも明らかだ。ネガティヴな引き算ではなく、必要のない音は入れないという積極的な姿勢が働いており、「どんな楽器でもどんな声でもすべてリズムを持っている」(益子樹)からこそ、プロダクション全体にポリリズミックなグルーヴが生まれている。

「歌もセッションして育てていくという意識があるんです。演奏に誘発されることで景色が広がるというか。いままで気になっていたリフにちょっとアクセントが加わったり、楽器に投げかけるようなことをすると、わたしも〈バックと歌〉という関係じゃなくて、バンドの一部としていい感じでその場に身を置いて曲を創っていけるんです」(益子ふみえ)。

 そうしたバンド内の空間作りと共鳴。そこに“Hallelujah”というナンバーにあるような日常のふとした想像力の発露が加わる。ひとつひとつの音の配置や定位・構図に吟味が重ねられ、その音がそこにあるべき〈必然性〉が込められている。それがASLNの世界観に風通しの良さを感じる所以なのだと思う。

「一見クールに聴こえて、実は暖かい。決してメインストリームではないけれど、気を衒っているわけでもない。自然ですよね」(高田康則、ドラムス)。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2002年11月21日 17:00

更新: 2003年02月07日 15:38

ソース: 『bounce』 237号(2002/10/25)

文/駒井憲嗣