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野心的な傑作を生み続けてきたコモンの新作『Electric Circus』が凄いことになってる!! 時空を超える電気仕掛けのガンボにはいったい何が入ってるのだろう?
おお、ジャケットには顔がいっぱい。このアルバムでは各曲ごとに入れ替わりでさまざまな人が関わっている(本当に興味深い!)のだが、それら膨大な関与者を中心に顔写真がパッチワークされている(ブックレットにちゃんと人名表記アリ)。そんないろんな人の顔が載せられたジャケは、ビートルズの〈サージェント・ペパーズ〉やモット・ザ・フープルの『The Hoople』あたりから、スライ&ザ・ファミリー・ストーン〈暴動〉の裏ジャケまでいくつものブツを例に出すことが可能だろう。
また、『Electric Circus』というタイトルからは、やはりいろんな人を招いて作ったローリング・ストーンズの「Rock'N'Roll Circus」のことを思い出す人もいるかもしれない。そういえば、両者のロゴが近似しているよなあ。そんなアルバム・タイトルについて、コモンはこう話している。
「〈Electric Circus〉という言葉は、俺の最新のエナジーを描写している。〈Electric〉は音楽を通じて自己を他人へ伝えていくエナジー、〈Circus〉はひとつの表現のもとに結集された音楽観の楽しみと自由を表しているんだ。この作品を聴いて、目を閉じてさまざまな色彩を描くことはできるだろうが、そこにはまだまだ暗闇があるんだ」。
前作のタイトル(『Like Water For Chocolate』)はメキシコの有名小説表題を英語に変えたものだった。ヒップホップ界きっての考える人/いい声と鋭敏な音楽感の持ち主の新作『Electric Circus』は音楽的にも大転換した問題作だ。
先にちょっとロック関連の話題を出したように、ロック的なデコボコを大胆に通したものになっているのは誰が聴いても了解するだろう。ディアンジェロの『Voodoo』と一卵性双生児のような真っ黒な仕上がりだった前作と比べると生音度数も減じた。だが、サイケ・ギターだけはいくつもの曲でかなり鳴っている。そのギターはパンク・ジャズ畑出身にして、最近は先鋭的なR&B勢にも重用されているジェフ・リー・ジョンソン。また、テルミンや意味不明な電気音の響き、オルゴールの音などが効果的に使われる様子からもわかるように、今作は音響ヒップホップと言いたくなる側面も持つ。
「通常捉えられているヒップホップ観を遙かに超えた何かをクリエイトしたこの作品は、俺たちが創っていくもののすべてがヒップホップになり得るということを理解できるものになるだろう」。
また、コモンはこんな説明の仕方もする。
「レコーディングを始めたときに、アミア(クエストラヴ:彼が所属するルーツの新作『Phrenology』も大飛躍作につき並聴されたし) が〈お前は宇宙に行きたいのか、それとも水中に潜りたいのか?〉って僕に訊いてきた。で、僕は〈その両方さ!〉って答えたんだ。他人の予想どおりにしたくないし、白人というだけで嫌ったり、ホモセクシャルだからって差別する気はない。そんな仕事のやり方はもうできないんだ。ただ自分の目標に向かって突き進むだけさ」。
そんな発言からもわかるように、新作は前作を制作していた名クリエイター・チーム、ソウルクエリアンズ(クエストラヴ、ジェイ・ディー、ジェイムズ・ポイザーほか)らが集結した作品にも関わらず(ネプチューンズも2曲関与)、前作とぜんぜん違う行き方をしている。そうした事実からも、コモンがしっかりと立脚点を保ちつつ、枠を超えようとしたのがわかる。沈滞せず変わらなくちゃという壮絶な意思、さまざまな音楽と人を繋いだ(各曲のライムには、カート・コバーン、スティーリー・ダン、ジョニ・ミッチェル、アル・グリーン、ジョージ・フォアマンらの名前が出てくる)先に新しいものを作りたい、それが『Electric Circus』に横たわる意思である。そして、その奥に仁王立ちしているのは、真のヒップホップ精神を行使することの尊さであり、胸を張ったアフリカン・アメリカンのしなやかな創造性だ。
「この曲は俺にとって実験であり、新たな経験である。だってマトモに歌ってる人(エリカ・バドゥ)とデュエットしている自分の歌声が聞こえてくるなんて、おかしなことだしね(笑)」とは、エリカとのデュエット“Jimi Was A Rock Star”のこと。見事なジミ・ヘンドリックス讃歌だ。コモンはジミがそうであったように、誰よりも〈天高く〉自由にカッ翔ぼうとしている。ジミの武器は革新的なギター奏法やボヘミアンなスタンスであったのに対し、コモンの場合は確かな言葉や肉声、編集の感覚が武器である。
「世界中を旅しながら、愛情、痛みや喜びを経験したり、たくさんの新しい音楽と出会ったわけだから、それらのすべてを自分のアルバムにおいて解釈し、表現するのはとても楽しかったよ。『Electric Circus』では、何よりも僕の〈フリーダム〉を表現しているから、これまでのアルバムとは比較にならないほど等身大の自分を多く反映させられたと思う」。
『Electric Circus』は、愛と創造性と心意気と自由が高い次元で溶け合った飛躍のアルバムである。そして、そこにはさまざまな人と人の、さまざまな音楽と音楽の〈ユニティー〉がある。
「人生の新境地に達したというか、アルバムを作っている時にも、自由や平和、喜びを感じることができたんだ」。
コモン(・センス)のこれまでのアルバムを紹介
92年作『Can I Borrow A Dollar?』(Relativity)
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カテゴリ : インタビューファイル
掲載: 2003年01月16日 15:00
更新: 2003年01月22日 13:25
ソース: 『bounce』 239号(2002/12/25)
文/佐藤 栄輔