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インタビュー

進化/変化を続けるマドンナの〈言葉〉と、その対象

1986年
 シングル・ヒットが並ぶこの3作目で、マドンナはすでに社会的なメッセージを発信していた。オープニング・ナンバー“Papa Don't Preach”のテーマは、当時のアメリカで深刻な問題になっていたティーンエイジャーの妊娠問題。〈パパ、怒らないで。夜も眠れないくらい悩んだけど、産むことに決めたの〉と父親に打ち明ける歌詞は、現代の日本においても切実に響く。〈いつかこの秘密を話せるときまで生きていく〉と意味深な歌詞の“Live To Tell”は、マドンナが心の内を語った最初の曲かもしれない。陽気なメロディーに乗せて反戦と平和を訴えた“Love Makes The World Go Round”は、稀代のポップ・アイコンである彼女の面目躍如といったところ。

1998年
 〈ひと筋の光〉というタイトルに表れているように、精神世界に傾倒した内容の歌詞が目に付く。〈誰もみな、それぞれの道を旅しているようなもの〉と唄う“Sky Fits Heaven”や、ヨガの教えを説いた“Shanti/Ashtangi”には、彼女の宗教観や哲学、死生観が色濃く出ている。我が子に〈あなたは私の宝物〉と語りかける“Little Star”は母親の慈愛に満ちており、出産を通じて彼女の内面が変化を遂げたことは間違いないだろう。ラスト・ナンバーの“Mer Girl”は、家出した少女の物語。涙と恐怖を隠しながら、森や教会や墓場を走り抜けてなお〈あたしはいまも走り続けてる〉と結ばれるこのナンバーは、彼女の劇的な人生を揶揄しているかのようだ。

2000年
 『Ray Of Light』に引き続き、さらにディープな精神世界に潜っていった作品。“Cyber-Raga”では、ふたたびインド哲学の思想が登場している。しかし、このアルバムでもっとも注目すべき曲は、かつてセックス・シンボルだった彼女が、音楽を触媒に精神の解放を促す巫女の役割を果たそうとしている“Impressive Instant”ではないだろうか。ここで彼女が表現しているのは、音楽の力を借りて宇宙と一体化する〈コズミック・トランス〉であり、性的快楽よりも純度の高いエクスタシーの体験だ。一方、〈若い頃の自分なんて覚えてない〉という“Paradise(Not For Me)”や、別離の悲しみにじっと耐えている“Gone”は私小説風で、新作の布石にも受け取れる。

2003年
 〈ひたすらアメリカン・ドリームを実現しようとしてる私/でも気づいたの/見かけどおりのものなんてひとつもない〉──タイトル曲“American Life”を皮切りに〈自分が知り得た真実〉をつぎつぎと口にしていくマドンナ。このアルバムは、彼女自身の言葉で赤裸々に綴られた自叙伝そのものだ。幸せだった幼少期(“Mother And Father”)やショウビズ界の虚飾(“Hollywood”)。“Intervention”では、スターである孤独に加えて〈せめて自由に子供たちを日光浴させてあげたい〉と母親としての苦悩も吐露している。

しかし、ここで立ち止まっているマドンナではない。無知だった自分やメディアへの怒りを原動力に再生を遂げた彼女は、より強くアグレッシヴになって戻ってきた。華やかな生活に憧れていた過去の自分を〈バカどころか大バカ者よ〉(“I'm So Stupid”)とこきおろし、トップを守り通そうとした努力を〈くそくらえだわ〉(“American Life”)と吐き捨てる様は、自虐的ですらある。

過去2作の主題でもあった独自の宗教観や哲学は、“Love Perfusion”(直訳すれば〈愛の洗礼〉)や〈迷子になったら/この場所に戻ってくればいい〉と唄う“Nothing Fails”でひとつの完結を見た。〈堂々巡りの果てに辿り着いたの/結局、家に帰ってきたのね/ただいま〉(“Easy Ride”)と静かに語りかける彼女。過去との決別を経て、最前線に復帰したマドンナのリヴェンジは、始まったばかりである。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2003年05月01日 16:00

更新: 2003年05月15日 18:52

ソース: 『bounce』 242号(2003/4/25)

文/岩田 祐未子

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